欧州

2023.12.10 11:30

「米国は助けに来ないかも」 欧州は独力でロシアと戦えるのか

遠藤宗生

ロンドン議会前にあるウィンストン・チャーチル像(Andrea Izzotti / Shutterstock.com)

ロシアはウクライナでの戦争の長期化を見据えてや経済を動員しつつある。もしウクライナを敗北させた場合、ロシアはそこで止まらないかもしれない。つまり、さらに西進して、バルト諸国やポーランドなど、北大西洋条約機構(NATO)の最前線の国に侵攻するおそれがある。

しかし、そうした大変動が起こっても、NATOの盟主である米国は何もしないかもしれない。「米国はわれわれを助けに来ないかもしれない」。英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のジャスティン・ブロンク上級研究員は、最新の論考の発表にあたってそう警鐘を鳴らしている。

全体主義国家による欧州の民主主義の支配、さらには破壊を防ぐために、米国以外のNATO諸国はただちに弾薬の生産を増強するとともに、ロシアの防空システムの破壊という危険な任務に向けて空軍の準備を進めなくてはならない。

現在、NATOの重要な軍需品の大半を提供しているのは米国である。だが、2つの要因から、米国の気前のよさは当てにできなくなるおそれがある。ひとつは米国自体に忍び寄る全体主義。もうひとつは、現実味を増す米中戦争の可能性だ。

中国が台湾に侵攻し、米国が介入した場合、米国防総省は勝利のチャンスを得るために、欧州駐留の米軍をアジアに移動させる必要が出てくるかもしれない。

「中国軍が台湾、もしくは南シナ海や東シナ海の主要な係争海域に対して封鎖や侵攻に踏み切るリスクは、2026年から2028年にかけて最も高くなりそうだ」。ブロンクは論考でそう分析している。

この時間枠では、中国軍がアジア太平洋に駐留する米軍に対して大きな航空優勢と海上優勢を確保している可能性がある。ブロンクによれば、その頃には「(米軍にとって)非常に問題になる中国の能力の大部分は成熟し、実戦配備されている」のに対して、新型のステルス戦闘機や爆撃機など「対抗する米国の装備の多くはまだ用意が整っていない」とみられるという。

「したがって、この期間にインド太平洋で危険なにらみ合いや実際の軍事衝突が起こった場合、米国(の戦力)は大きく引き伸ばされることになる」とブロンクは続けている。

ロシアの独裁者ウラジーミル・プーチンは、自由なウクライナを破壊するという目標を中国による台湾攻撃よりも先に達成した場合、米中衝突の機を捉えて、民主主義の欧州に対する攻撃を続けようとするかもしれない。欧州大陸は「(中国による台湾侵攻と)並行したロシアの軍事侵攻を受けやすい状態に置かれる」とブロンクは警告する。

ブロンクの論考では、中国との戦争がなくても、米国が友人や味方であるはずの国への軍事支援を停止する可能性については触れられていない。

米議会の共和党は今月、ウクライナとイスラエル、台湾への軍事援助を含む法案を否決した。これらの援助と引き換えに、長年続けられてきた難民保護政策の実質的な廃止をジョー・バイデン政権側に要求していたが、折り合えなかったからだ。

共和党政権では、米国による中国やロシアの軍事侵攻への対応は「何もしない」というものになりかねない。その場合、欧州の民主主義諸国は独力で対処せざるを得なくなる。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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