ラグジュアリーもコミュニティも「デザイン」が突破口になる

鈴木 奈央
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他方、カンファレンスに一緒に参加した同大学のデザイン学部の先生は、経営工学部の学生たちよりもデザインを学ぶ学生の方が、社会意識が高いと指摘します。

「デザイン学部のほとんどの学生は社会をどうするか? に一律に関心が高い。何かやろう、という意欲がある。でも、じゃあお金をどうする? というところでその先に行くのに苦労する」

デザイン学部の授業を受けた経営学を学ぶ学生も同様の印象を語っていました。つまり、デザインの学生は社会への関心の持ち方が違う、と。さらに説明を加えれば、デザイン側の学生はプロジェクトのお金の工面に困ったとしても、経営学にそこまでダイレクトに関心を抱いていないことが普通でしょう。

デザイナーは何らかの問題に気づいたときに身軽というか、自らの手を動かしてどうにしかようとするタイプが多い。生の人のあり方に関心が強く、そのためにデザイナー自身と人との距離が必然的に近いこともあると思います。

11月、国際ブラインドフットボール財団がミラノ工科大学のキャンパスでデザインの学生を相手にワークショップを行いました。視覚を意図的に遮ることで逆に見えてくるものが多いという趣旨と効用を学生たちは身体で即座に理解したようでした。

参加した学生たちはノリが抜群に良いです。こうしたタイプの人たちは経営学を学んだ人のノウハウに頼らなくても、自分たちで問題を解決できると考える傾向にあります(現実に解決できるかどうかは別として)。
アイマスクで楽しそうな学生もいる @Ken Anzai

アイマスクで楽しそうな学生もいる @Ken Anzai

このように経営学とデザインのそれぞれを学ぶ学生の傾向の違いを感じながら、ラグジュアリー領域はデザイナーが起点になることが多いはずと思い至ります。ファッション、雑貨、家具など、あまり資金がなくてもビジネスをスタートできる分野ではデザイナー主導の起業は珍しくありません。それは提供する商品が圧倒的な魅力を放っているのが第一優先条件になるからです。
アイマスクでも自然と身体が動くようになる @Ken Anzai

アイマスクでも自然と身体が動くようになる @Ken Anzai

行き過ぎるとプロダクトアウト的なアプローチとの批判に晒されるのですが、人々に愛される、あるいは人々を熱狂させることなく成功はあり得ない、というわけです。最初から経営のことが分かっている人がパートナーでいれば理想ですが、ある程度の規模のビジネスに育ちそうとの見込みがついた時、(経営学を学んだかどうかに関わらず)経営の心得がある人が参加してくるのがクリエティブ領域の一般的スタートアップです。
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文=安西洋之(前半)・中野香織(後半)

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