グッドデザイン賞で注目 タブレット活用した山口市の「未来の授業」とは

タブレット端末を使い、メディアアートの知見を取り入れた授業が生まれる山口市 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

タブレット端末を使い、メディアアートの知見を取り入れた授業が生まれる山口市 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

文部科学省によるGIGAスクール構想に基づき、現在、小中学校に通う児童たちには1人1台のタブレット端末が配布されている。変化する教育の形に対応すべく、山口市の教育現場で、あるユニークな試みが行われている。

前回は、山口市にあるメディアアートセンター、山口情報芸術センター YCAM(通称:ワイカム)の活動についてお伝えした。そこで述べたように近年、YCAMではメディアアートの研究開発で得られる様々な知見を社会応用する取り組みが加速している。
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様々な課題に直面する地方都市において思考と実践(Think&Do)を担う存在としてのYCAMの可能性とはいかなるものだろうか。YCAMの知見を地域の学校教育に応用するプロジェクト「未来の山口の授業 at School」を紹介しよう。

本プロジェクトは2022年に日本e-Learning大賞(文部科学大臣賞)、2023年にグッドデザイン賞とキッズデザイン賞(経済産業大臣賞)を受賞するなど、地域の力で学校教育をアップデートする試みとして高い評価を受け、注目されている。


写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]、撮影:塩見浩介

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]、撮影:塩見浩介


「未来の山口の授業 at School」は、YCAMが開発した教育プログラムを山口市内の小中学校で実施するプロジェクトで、2016年から継続している。21年からは、山口市独自の教育モデル構築のため山口市教育委員会の「やまぐち子ども未来型学習プロジェクト」事業の一環として共同で進めてきた。

これまで、YCAMはタブレット端末を活用したオリジナルの授業開発や教員研修などの事業を継続的に行っており、長年にわたり山口市の小学校に対してプログラミング教育の普及を行ってきたファブラボ山口や地域のエンジニアと協働し、地域発のボトムアップな取り組みを目指し運営している。

新しい学びのヒントになればと思い、これまで開発した授業プログラムから抜粋して紹介する。

生き物、歴史、まち、十人十色の視点でできた「360°図鑑」

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]


360°図鑑」は山口市の小学生が、自分たちの住む地域について調べ、記した、ぐるっと360°見渡せる手作りのウェブ図鑑だ。地域をフィールドワークした際の気づきや発見などの「自分の視点」にピンを立て、コメントを書き込むことができる。

テキストによるコメントに加え、タブレット端末で撮影した写真や動画をクラウドストレージ経由(山口市はGoogle Driveを使用)で表示することも可能だ。ウェブ上で動作し、他の児童が書き込んだコメントがリアルタイムで反映される。360°図鑑はいわゆる従来の図鑑のように専門家がつくり、上から下に知識がおりてくるといったものではない。自分で調べ、みんなで記した手作りの図鑑なのだ。図鑑の制作を通じて、他者との協働による調査方法やメディアの効果的な活用方法について学ぶことができる。

各学校によって設けられたページには学校上空からドローン空撮で地域を見渡したページや、神社、庭園、牛舎、商店街など地域の特徴的な場所を図鑑化している。これまでモデル校として山間地域、沿岸地域、市中心部の学校など複数の小学校で図鑑を制作し、山口の豊かな風景や地域性が子どもたちの視点を通して紹介されている。子供達の地域学習の成果をぜひ見ていただきたい。

生雲小学校(山間地域)、秋穂小学校(沿岸地域)、白石小学校(市中心地域)
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文=菅沼聖

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