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2023.10.20

カルチャープレナーの発信地・京都 門川市長が語る「1000年物語」のこれから

Governor's Letter 08 京都市長 門川大作

地方自治体の首長が、それぞれの地域の「誇れるもの」を語るシリーズ企画「Governor's Letter」。今回は、京都市の門川大作市長が登場する。1000年を超える歴史が紡がれる中、伝統文化・技術を基盤にイノベーションを起こし続けてきたまち、京都。
 
伝統文化や地域資源を生かし、新たな事業を生み出すカルチャープレナー(文化起業家)が勃興しつつある。Forbes JAPAN本誌では、カルチャープレナーを初めて特集。
 
「カルチャープレナー」の発信拠点であるリーダーはいかなるビジョンを掲げるのか。門川市長が伝統と革新が循環する1000年のストーリーを語り出す。


京都発イノベーションの源泉とは

「誤解を恐れずに言えば、京都市はいわゆる“観光都市”ではありません」
 
インパクトのある、あなたのまちの数字を教えてください──。門川大作に問うと、まず釘を刺された。京都は世界のツーリストに圧倒的な人気を持つ都市。神社仏閣などの歴史遺産が数多く、世界的なプレゼンスは絶大だ。事実、2022年に京都市を訪れた観光客の数は4361万人にのぼり、コロナ禍前の8割まで回復している。しかし、門川は「観光都市ではない」とあえて言い切る。首長としてまず挙げるのはアカデミアに関する数字だ。
 
「京都市の大学・短大に通う学生の数は15万人を超えました。人口あたりの学生数が10.3%と東京都区部の5%台を大きく上回る全国1位です。そして、見逃せないのが留学生の数です。

京都市は関係機関と連携して留学生スタディ京都ネットワークを立ち上げ、留学先・学びのまちの認知度を向上させる施策を手がけてきました。その成果もあり、この7年間で留学生数は1.6倍に増加し、1万4000人以上にのぼっています。日本全体の留学生数が1.1倍と微増の中、これは大きなインパクトがあるでしょう。京都市は単なる『学生のまち』でもありません。『世界の学生から選ばれるまち』なのです」
 
国内のノーベル賞受賞者の約半数を輩出している京都大学をはじめ、理工系や6つの芸術系など、それぞれ特色を持った大学・短大数は市内に36校。産学公が連携してR&Dを進める研究機関も多い。アカデミアが集まり、世界の学生に選ばれるまち。知の集積が京都市のイノベーションの源泉となっている。
 
「イノベーションを起こしてきたのは、都市として1000年を超える歴史、そして『精神文化』と『ものづくり』が相互に刺激を与え合い、進化する、その積み重ねです。お茶は茶道であり、お華は華道、香りは香道など、人間の生き方を求める『道』として文化が受け継がれ、深められてきました。人々の生き方の哲学や、その根底にある物語も同じように受け継がれてきたのです。
 
私は哲学者の故・梅原猛さんに何度もお話を聞く機会を得ましたが、仙台出身の梅原さんは、大学教育を東京で学ぶか、京都で学ぶか悩まれたそうです。そして、東京では100年の真理が学べるが、京都では1000年の真理を学べる、と京都に来られた。梅原さんが憧憬を抱いたように、知と文化の物語が途切れることなく、1000年に渡って受け継がれてきた。それが京都というまちなのです」
 
京都市で紡がれる不朽の1000年ストーリー。それは伝統文化や学問の世界に限るものではない。「京都に流れる悠久の時。それは現代のものづくり、先端テクノロジーにも連なり、イノベーションをもたらし続けています。伝統、それはすなわち革新の連続に他なりません」と門川は語る。
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文=佐々木正孝 写真=コイケ マコト

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