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2023.10.02

京都北部・与謝野町に見た「ローカルラグジュアリー」の可能性

京都府与謝野町のホップ畑で開かれたパーティー

皆さんは、京都府北部の与謝野町をご存じですか?

1年ほど前にお声掛けをいただき視察に行った京都府与謝野町に、改めて有識者を招く視察ツアーが開かれ、再度訪問する機会を得ました。京都駅から車で1時間半弱。決して好立地とは言えませんが、ついまた訪ねたいと思う素敵な土地です。

山添藤真・与謝野町長にアテンドいただきながら、地域の様々な活性化の事例を見てきました。与謝野町は、京都府北部、日本海に面した丹後半島の尾根を背景に、福知山市、宮津市、京丹後市などに接しています。2006年3月1日、加悦町・岩滝町・野田川町が合併し誕生した町で、人口は2万人弱。江戸時代からは丹後ちりめんが地場産業として栄えた地域です。

丹後ちりめん会社 経営危機下「手織り織機」を導入

丹後ちりめん会社が手織り織機で手がけたネクタイ

丹後ちりめん会社が手織り織機で手がけたネクタイ

与謝野町と切っても切り離せない丹後ちりめんの技術を、現代のライフスタイルに合わせて展開し、支持を集めているクスカ株式会社の工房を訪れました。クスカは1936年創業で、初代楠嘉一郎からつづくちりめん製造販売業。創始者の名前の頭文字から、現在はクスカという社名になったといいます。

楠泰彦社長は、丹後ちりめんは産地で、最盛期には年間で地球4周半分、1000万反もの生産量があったと言います。しかし和服から洋服を中心としたライフスタイルの変化の中で、現在では年間15万反......1.5%にまで生産量は大幅に縮小したとのこと。

経営的にも困難な局面を迎えたなか、2008年に社長に就任した楠泰彦さんは、大量生産のためそれまで工場で行っていた機械織機を全廃し、生産効率は悪くても、唯一無二の質感を生み出すことができる「手織り織機」を導入します。

手織り織機によって、味わい深い質感が生み出されている

手織り織機によって、味わい深い質感が生み出されている


機械織では生み出すことのできない豊かな表情が支持され、現在ではデパートなどでも取り扱われ、帝国ホテル内にショップ出店をするなど順調に事業に取り組んでいます。
クスカ株式会社 楠泰彦社長

クスカ株式会社 楠泰彦社長


300年を超える丹後ちりめんの歴史と伝統を、市場トレンドやファッション性とかけ合わせることでビジネスとして成立させています。実際に今回は工房を訪問し、織機や織物に触れる機会を持ったことで愛着や思い入れへと繋がりました。

まちぐるみのホップ生産 クラフトビールが誕生

続いて訪れたのは、京都丹後鉄道宮豊線の与謝野駅前に出来たブルワリーに併設された店舗・PUBLIC HOUSE TANGOYA。1年前はなにもなかった更地の場所に、店舗が誕生しました。店長の野村京平さんに今秋以降稼働予定のブルワリーも案内してもらい、自慢のクラフトビール「ASOBI」を頂きました。

与謝野駅前で賑わうブルワリー併設の「PUBLIC HOUSE TANGOYA」

与謝野駅前で賑わうブルワリー併設の「PUBLIC HOUSE TANGOYA」

与謝野町は、まちぐるみでホップ生産に取り組んでいます。高い価値提供ができる農作物の栽培と6次産業化に取り組んでいく必要があると考えていた地元農家の呼びかけをきっかけに、2015年4月にホップ定植をスタート。

全国的にも希少なホップの栽培に取り組みながら、クラフトビール産業の創出をめざし、農業振興のひとつとして支援を開始する(2015年4月に初めてホップを定植)。収量は5年で10倍以上になり、2019年には、Iターンした若者たちによる株式会社ローカルフラッグが、ビール醸造を始めたのです。
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文=秋元祥治

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