進化する伝統産業と市場開拓
「京都の伝統産業は、時代のニーズに応じてかたちを変え、市場を開拓してきました。例えば、京セラや島津製作所です。京焼・清水焼という陶磁器の技はセラミックスコンデンサーの開発の基盤になっています。島津製作所は仏壇・仏具の製造で培ってきた加工技術を生かし、精密機械や医療機器の高度な製造を手がけていますね。同様に、印刷や染物の技術は半導体を製造する技術の底流になり、酒造業のノウハウが創薬やバイオテクノロジーを支えています。コンテンツ産業もしかりです。花札からゲーム機に発展した任天堂が代表例ですが、鳥獣戯画絵巻はマンガの原点で、能や狂言などのカルチャーは映画やアニメーションの礎になっています。匠の技は先端の産業や最新テクノロジーの母体として連続しているのです」(門川)
伝統の文化と技術が革新を生み、新たな産業のレガシーとなる。京都では伝統と革新が時間軸に折り重なり、スパイラル的に発展を遂げていく。この産業エコシステムは、今後もスムーズに循環していくのか。京都市が抱える課題をたずねると、門川の口からは「持続可能性」というキーワードが飛び出した。
「私が市長に就任したのは2008年のことです。リーマンショックが到来し、市の財政は過去最大となる赤字決算。さらに、政府の「三位一体改革」という方針で、国からの地方交付税は47%、600億円減に。4000人を超える職員を削減するなど、行財政改革を断行しつつ、全国トップ水準の福祉や教育、文化などを維持・向上させてきました。
そのような状況下、将来を見通してより足腰の強い行財政の確立をと、市長4期目はさらなる『挑戦と改革』を公約に明記し、信任を得て、大改革を断行しました。その結果、22年度決算では21年ぶりに『特別の財源対策』から脱却し、77億円の黒字となっております。
これからも若い世代に選ばれる都市であり続けなければ……そんな危機感があります。大学生のうち、卒業後も市内にとどまるのは2割程度であり、若い人の定住を進めていかなければなりません。オフィスやワーキングスペース、産業用地など、働く場所の確保も喫緊の課題です」