グッドデザイン賞で注目 タブレット活用した山口市の「未来の授業」とは


「スポーツハッカソン for Kids」は犬飼博士氏(eスポーツプロデューサー、ゲームクリエイター)や一般社団法人 運動会協会ら多くのコラボレーターとYCAMが継続的に取り組んできたスポーツとメディアテクノロジーの融合を実践するコミュニティの創出を軸とした「YCAMスポーツ・リサーチ」の活動から生まれた。

もちろんどの研究開発も最初から現在の姿を設計し、予測しているわけではない。アイデアは人から人へ、変異を繰り返し連鎖していく。「未来の山口の授業 at School 」において、変異を起こす要因となったのは間違いなく山口市教育委員会の教育変革に対する強いモチベーションである。

社会には多様なモチベーションが存在している。教育、まちづくり、観光、福祉、産業振興といったものから、表現や子どもの遊びといった個人的なものまで形は様々だ。メディアアートの研究開発から生まれた「意図せぬ産物」を社会に開いた時、その産物を拾った人物が異なる分野、異なる発想で応用し、新たな価値が生まれる。この創造の連鎖を促し、サポートするのが社会におけるYCAMの一つの機能と言えるだろう。

イノベーションは混沌から生まれる。という話はよく耳にするが、混沌を上手く容認できない現代社会において、実験性や創造的自由を担保する場としてアートクリエイションへの期待が高まっている。加えてYCAMの場合は、メディアアートが内包する技術開発と「創造の連鎖」との相性が極めて良い。計算機であるコンピュータが良い例だが、テクノロジーそれ自体に目的はなく、使い手の意思によって技術の使い方は変わっていく。

YCAMでは開発したツールや知見を(時にはオープンソースプロジェクトや論文といった形で)積極的にオープンにし、近所に住んでいるかもしれない、はたまた地球の裏側にいるかもしれない未知のコラボレーターとの出会い方も研究対象としている。この連鎖が有機的に循環するために、YCAMがどのようなアーキテクチャを持つべきなのか、今後も実践を通してモデル化していく。

「未来の山口の授業 at School 」は今後も山口市教育委員会とともに継続的に実施し、学校教育に伴走する地域のアートセンターの可能性を探求していきたい。

補足情報となるが、2023年12月からYCAMの館内で、「未来の山口の授業 at school」の成果展示を予定している。記事内でも触れた「うご板」をはじめ生徒たちの作品を展示するとともに、活動の軌跡を紹介する。同時期にはアイデアや知識をシェアし育む学びの場としての展覧会「あそべる図書館—Speculative Library」も開催中。教育やコミュニティ形成に興味のある方はぜひ足を運んで頂きたい。おいでませ山口。

文=菅沼聖

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