グッドデザイン賞で注目 タブレット活用した山口市の「未来の授業」とは

タブレット端末を使い、メディアアートの知見を取り入れた授業が生まれる山口市 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

360°図鑑は従来の学校教育の中で行われていた「地域学習」のアップデートである。
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これまでは紙面でまとめ、授業内で発表していたものが、タブレットで編集し、成果はインターネットで世界に公開される。授業中、児童たちはタブレットを駆使し、フィールドワーク、写真撮影、地域の方々へのインタビューを行う。教室に戻ると、教員によって撮影されたフィールドワーク先の360°画像に対してコメントをつけていくという流れだ。

低学年の児童のコメントは「きんもくせいを見つけたよ」「かえるをみつけたよ」など素朴なものも多く、自然と口角も上がってしまう。

ただ中学年、高学年ともなると引用元となる参考文献の記載まであり本格的だ。360°図鑑を完成させるまでの授業プロセスにはタブレット活用のはじめの一歩(タイピング操作など初歩的な知識、クラウドサービスの使い方)から高度な内容(インタビュイーへの同意、肖像権、個人情報保護)まで内包しており、発達段階に応じて教員ごとに実践されている。
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また図鑑完成後の成果発表の方法も学校ごとの特色が出ており、多様な取り組みが行われている。

地域の方々を集めて行う地域交流会や授業参観日、市内の駅に設置されたデジタルサイネージでの展示など様々だ。そのほか、360°図鑑を制作した学校同士のオンライン交流授業も行われる。山の地域の学校と海の地域の学校をオンラインでつなぎ、お互いの図鑑を見ながら行う地域の魅力紹介の場だ。

「毎日海が見れるのいいな、うらやましい!」
「え、ランドセルに熊よけの鈴つけるの?」

同じ山口市内でもこの面白さである。県外交流、国際交流など想像するだけでワクワクしてしまう。これまでモデル校での実施に加え、県外での出張ワークショップを行ってきた。来年度には本格的に山口市全域の小学校での運用を予定し、開発を進めている。

60台のタブレットを使用したデジタル壁画「うご板」

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]、撮影:塩見浩介

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]、撮影:塩見浩介


2023年10月に山口市立大殿中学校の文化祭で発表した「うご板」は、オリジナルで開発したアプリケーションとタブレットボックスを使用し、タブレットで撮影した映像を空間に自由に配置していくことで映像表現を学ぶ授業プログラムだ。映像作家/研究者の萩原健一氏(秋田公立美術大学准教授)とプログラマーの林洋介氏(HAUS)と共同で開発を行った。

「うご板」アプリケーションは、タブレットで8秒の映像を撮影し、その映像素材をループ再生することができるシンプルなシステムだ。もうひとつの機能は映像再生中に画面をタップすることで、再生位置(映像のスタート位置)を任意に調整できることだ。これにより、複数のディスプレイを用いて映像を同期再生することにより「つなげる」ことができる。

たとえば「ボールが画面左端から右端へ転がる」映像が表示されたタブレットと「生徒が左端から右端へ走る」映像のタブレットを繋げて配置することで「つづき絵(*1)」のように映像をつなぐことができる、といった寸法だ。

もちろんこれはうご板の持つ可能性の一部に過ぎない。オリジナルのタブレットボックスと組み合わせることで、上に高く積み上げる、映像を縦にしてみる、表裏で配置してストーリーをつくってみる、タブレットの間にあえて距離を開ける、映像に合わせてタブレットを振ってみる、などマルチディスプレイならではの多彩な表現形態の探求ができるのだ。
写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]、撮影:塩見浩介

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]、撮影:塩見浩介

*1 つづき絵:画用紙に描いた絵を上下左右につなげストーリを作っていく手法。小学校において図画工作の授業で行われる

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文=菅沼聖

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