グッドデザイン賞で注目 タブレット活用した山口市の「未来の授業」とは

100人の先生と考える未来の山口の授業(教員研修)

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]、撮影:塩見浩介

写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]、撮影:塩見浩介


「未来の山口の授業 at School」は学校教育のプロである教員との共同なしには進めることはできない。2021年に市立の小中学校の教員を対象に研修会「100人の先生と考える未来の山口の授業」を開催した。この年はGIGAスクール元年と言われ、多くの自治体が児童に1台ずつタブレットを配布し始めた年度だ。当然、教育現場の混乱が予想された。

これに対し研修では、学校に配備されたタブレット型パソコンの活用方法や、プログラミング教育など、授業の情報化に関連するレクチャーが行われるとともに、各学校の教員同士が集まり、テクノロジーの変化におけるこれからの社会と教育について議論する機会となった。またYCAMが開発した「360°図鑑」や「うご板」などのアプリケーションに対する教員のフィードバックも研修を通じて共有できる場にもなっており、事業全体の改善に大いに寄与している。

教員や児童のアイデアやフィードバックは積極的にプログラムに組み込まれていく。例えば「360°図鑑」で採用している学校の校庭からドローン撮影を行い、地域を俯瞰するアイデアは教員からのものだ。「自分たちが住む地域を高い場所から俯瞰する」という社会科の教科書の章立てから着想を得ている。教員や児童とともにワークインプログレスで小さな改善を行っていくのも「未来の山口の授業 at School」の特徴だ。実験性や先進性は地方都市という小回りのきくスケールが担保している部分も大きい。

メディアアートの社会応用 イノベーションの起こし方

このような授業プログラムはどのようにして生まれるのか。何も無い砂漠から突然生まれたものではない。これらはYCAMがメディアアート表現の探求を通じて得た知見の応用であり、YCAMの研究機関 YCAM Interlabのスタッフに蓄積しているノウハウやアイデアの再結晶化なのだ。

「360°図鑑」の応用元は2015年から始めたバイオテクノロジーの研究開発プロジェクト「YCAMバイオ・リサーチ」の過程で生まれたワークショップ「森のDNA図鑑」だ。この時実装した全天球画像を背景としたウェブサイト構築の知見を元に360°図鑑は開発されている。

「うご板」は2008年に開発した持ち運び可能な複数台のワイヤレススピーカーを用いた「空間と音」をテーマにしたワークショップ「walking around surround」の知見が生かされている。
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文=菅沼聖

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