地域で、世界で、活躍するカルチャープレナーたち【前編】

カルチャープレナーとは、文化起業家のこと。英語のCultural Entrepreneursを元にした造語であり、新しい概念だ。

今、日本各地では、職人によって受け継がれてきた伝統技術や工芸品などが、担い手不足や時代の変化に伴い、姿を消しつつある。しかしその一方で、我々が失いかけている文化資産の価値に気づき、自分たちの手で今に息づかせたいと立ち上がる若い起業家たちも多く現れている。

そんな「カルチャープレナー」たちの存在は、異業種との結合やニーズの掘り起こしによって、今後大きなムーブメントになるかもしれない。それは、これからの日本経済にとっても、新しい可能性となるはずだ。

「Forbes JAPAN」2023年11月号(9月25日発売)では、そんな「カルチャープレナー」を特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって、それまでになかった革新的なビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家を選出した。受賞者たちの革新的な取り組みを紹介していこう(順不同)。

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現代アートは社会の一部 新感覚の私設美術館で街を潤し文化を更新する

林田堅太郎|KAMU Kanazawa 館長
Tetsutaro Saijo ©KAMU Kanazawa

Tetsutaro Saijo ©KAMU Kanazawa

2020年6月に金沢にオープンした私設美術館「KAMU kanazawa」は、開館以降、美術館の常識を覆す斬新な取り組みの数々で注目されている。

「例えば、展示の分散。ひとつの建物にすべての作品を集約する必要はないので、金沢市内約8カ所に分けて展示しています。それぞれの実施効果を見直すため、招待券や宣伝ポスターの印刷もなくしました」

20代のころから、アート作品を「好きな服を買う感覚で」買い始めた。そうしてつながりのできたアート界隈で幾度となく「日本の美術館は赤字経営ばかりだ」という嘆きを耳にし、あるとき自分なりに黒字化できる経営プランを算出してみたのが始まりだ。「アートに対して特別な使命感があったわけではない」と語るが、そのドライな口ぶりと相反するユニークな発想には、人を惹きつける魅力がある。周囲に私設美術館設立の構想を話すと、各方面から「もっと周囲を巻き込んで大きくやるべきだ」と叱咤激励されてしまった。それならと、林田はクラウドファンディングを立ち上げ、たった6カ月で構想を実現させた。

美術館・アーティスト・街の三方良しになるビジネスをモットーとし、今では市から企画を依頼されることも。市内に分散するアートを鑑賞する人が増えれば、金沢の街に新たな人流が生まれる。観光都市・金沢へもたらした経済効果は大きい。

高校卒業後に専修学校 KIDI PARSONS(現在は廃校)へ入学し、初めて金沢との縁が生まれた。市への貢献には、この街と人に育ててもらった恩返しの意もある。

「2004年に開館した21世紀美術館の集客効果と、新たに人々が街に流れる仕組みをつくることのできたKAMUの存在が相まって、現代アートは金沢の人にも身近な文化として受け入れられるようになってきました。アートや美術館を特別扱いするのではなく、今の社会や未来とどうつながっているかを考えることが重要。僕たちには、良い作品を後世まで残していくミッションがあります。ここから10年で、それが可能になる運営システムを完成させたい」

城下町として栄えた伝統ある金沢で、現代アートという新たな文化を更新してゆく。

伝統技法を昇華した斬新な陶芸のクリエーションに世界が注目

桑田卓郎|陶芸家 / アーティスト
photo by Koho Kotake

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学生時代に陶芸に出会い、その後、陶芸家の財満進に師事。「梅華皮」や「石爆」と呼ばれる伝統的な技法を駆使しながらも、鮮やかな色遣いやポップな造形をもつ作品の数々が海外でも高く評価され、2018年、ファッションブランドLOEWEが主催するアワード「LOEWE Craft Prize2018」特別賞を受賞。
©︎takurokuwata

©︎takurokuwata

21年には陶芸界で優れた業績を残してきた陶芸家に贈られる日本陶磁協会賞も受賞した。現在は岐阜県多治見市に構えた工房を拠点に創作活動を行っており、作品は世界各地のパブリックコレクションに収蔵されている。
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文=眞板響子、督 あかり

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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