日本文学を世界の舞台へ 価値ある作家と作品への評価を最大化する
寺田悠馬|CTB 代表取締役寺田は、2017年に作家のエージェント業とプロデュース業を行うCTBを共同設立。ゴールドマン・サックス証券でキャリアをスタートさせ、外資ヘッジファンドへ移った後、起業への関心から金融業界を退き、香港を拠点に世界各国の起業家と面会を重ねた。そのなかで最も魅力を感じたのが、のちにCTBの共同代表となる編集者・三枝亮介が当時すでに立ち上げていた作家エージェントのコルクだった。
特別勝算があったわけではない。ただ、それまでに出会った起業家とは対照的な価値観を持つ三枝との挑戦に惹かれ、ビジネスとしても大きな伸びしろを感じた。
「諸外国では全著作権のマネジメントをエージェントに託す作家が大半で、外部との窓口が一本化されているのに対し、日本では作品ごとに窓口となる出版社が異なり、外からは非常にわかりにくい体系になっています。日本の作品の面白さは世界中が知っているのに、商慣習の違いが理由で企画会議のテーブルにつけていない。これは挑戦する意義があると思いました」
もとより、ビジネスや投資に限らず文学、映画、演劇への造詣が深かった。著名な脚本家である父・寺田憲史から過分に影響を受け、漫画やアニメ、ゲーム、国内外の小説、映画があふれる家庭で育った。進学先のコロンビア大学では美術史を専攻し、オフ・ブロードウェイの劇場で働いた経験ももつ。
現職では、未翻訳だった伊坂幸太郎の小説『マリアビートル』をハリウッドに売り込み、22年にブラッド・ピット主演の映画『BULLET TRAIN』として映像化を実現。同作は世界興行成績2.3億ドルを記録するヒットとなり、エグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされた寺田たちの活動も広く知られるところとなった。これを機に諸外国の出版社との契約も決まり、伊坂作品は現在20カ国語で出版されて多くの海外読者を獲得している。翻訳版の有無は、その作品が広く長く読み継がれるための条件のひとつだ。
「日本語の小説は翻訳版がなければ海外で一般読者を得ることが難しい。例えば文学を学ぶ学生に対して指導者が課題として読ませることも出来ません。世界文学になるか否かは、作品そのものの優劣だけでは決まらないんです。優れた作家を、きちんと世界文学の舞台へ届けていきたい」