カルチャー

2023.11.26 11:30

地域で、世界で、活躍するカルチャープレナーたち【前編】

生物学×造園の異色タッグで 鑑賞性と探索性の両立を目指す

片野晃輔、西尾耀輔|Veig

片野は、高校卒業後よりMITメディアラボやSony CSLなどを経て独立し、現在はサステナビリティ領域の事業・研究コンサルなども行う研究者。西尾は富山県小矢部市にある造園業「越路ガーデン」の3代目で、全国各地で造園空間の設計と施工を行う。2人は2021年末に造園ユニットVeigを結成し、これまでに異分野との共同プロジェクトや日本科学未来館の常設展示のほか、南青山にある富士フイルムグループの拠点「FUJIFILM Creative Village」の植栽も担当した。景観的に美しくありながら生態系としての機能や役割も重視した独自の空間を目指す。

Hiroki Tagawa (nando inc.)

Hiroki Tagawa (nando inc.)

名古屋の「有松鳴海絞り」をモダンに再興 海と時代を超えて伝統工芸を循環させる

村瀬弘行|スズサン CEO / クリエイティブ・ディレクター

「正直、斜陽産業である家業にはまったく関心がなかったんです。4代目である父からも『継いでほしい』と言われたことはありませんでした」

実家「鈴三商店」の家業は、江戸時代初期から続く絞り染めの染色技法「有松鳴海絞り」。すべて手作業で生み出される染模様の味わいが何よりの特徴なのだが、各家庭が生産の一工程を受けもつ完全な分業体制の歴史が災いし、職人の高齢化に伴って年々衰退傾向にあった。

ドイツの美大に留学中だった村瀬は、イギリスで展示会を行う父の手伝いで、数年ぶりに家業に触れる。そこで有松鳴海絞りの美しさにハッとさせられた。海外のビジターの反応も新鮮で「売る土地を変えることでモノの価値は変わる」と確信した。

在学中の2008年に起業し、オリジナルブランド「suzusan」の生産・販売を開始。学生寮でデザインした商品を手に、5年ほど、欧州中のショップへ飛び込み営業を続けた。

「最初のころは厳しい反応ばかりでしたが、相手が根負けするまで商品の改良を繰り返し、今でも続く関係を築くことができました」

これまでに29カ国での商品展開に成功。現在も売り上げの9割を外貨が占める。国内の顧客はほとんどが40代以上の女性だったが、村瀬の商品はメンズのセレクトショップでも人気が高く、感度の高い10~20代の男性がわざわざ有松へ足を運ぶようになったという。

「これまでは産地から世界へモノを出すことをやってきましたが、今後は世界から有松へ人を呼び込む動線もつくりたい。有松鳴海絞りが400年間つくり続けられているということは、同期間、使ってくれていた人もいるということにほかならない。ニーズの受け皿をつくることでユーザーの母数を増やせたら」

2021年からは名古屋市が主催する伝統産業海外マーケティング支援プロジェクト「Creation as DIALOGUE」の統括コーディネイターに就任。さらに22年からは、suzusanの取り組みが国内企業の海外進出例として全国の中学校の国語の教科書に採用されるなど、各方面でその活動が高く評価されている。

「伝統をサステナブルに考えるうえで、次世代とどう対話をしていくかも大事だと考えています。今の中学生が10年後の社会を想像したときに、弊社の取り組みを思い出してもらえたら嬉しいですね」
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文=眞板響子、督 あかり

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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