欧州

2023.10.31 09:30

ウクライナ軍、ドニプロ川対岸に「橋頭堡」設置 進軍の足掛かりに

遠藤宗生
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ウクライナ軍が多数の兵士にドニプロ川を渡らせ、クリンキやその周辺へ向かわせる理由は明白だ。クリンキから南下すれば、河口周辺に展開するロシア軍の数個の連隊を孤立させ、ロシアが占領するクリミア半島の玄関口をおさえることができる。

だが、渡河は危険を伴う。ロシア軍は、それを昨年5月に体験済みだ。ウクライナ東部を流れるドネツ川を浮桟橋(ポンツーン)で渡ろうとしたが、川岸でウクライナ軍のドローンと大砲の攻撃に遭った。結果、80両近くの装甲車両が破壊され、兵士約500人が死亡した。

ウクライナ軍が首尾よく浮桟橋を建設し、戦車や戦闘車両などの重装備をドニプロ川対岸の橋頭堡に運ぶことができたら、それはクリンキ周辺に展開するロシア軍が現時点でかなり小規模で、大きな補強部隊が送られないからかもしれない。

ウクライナにいるロシア軍はあちこちで手薄になっている。同軍の旅団や連隊はウクライナ南部と東部でいくつかの軸に沿って仕掛けられているウクライナ軍の反攻に対する防衛戦を戦っているだけでなく、アウジーイウカ周辺やクレミンナの森など東部で攻勢をかけてもいる。

特にアウジーイウカへの攻撃では、ロシア軍の損失が非常に大きくなっている。ウクライナ軍の第110機械化旅団と、共に戦う部隊は、数百人ものロシア兵を殺害し、数多くの装甲車両を破壊。わずか3週間で1個旅団に相当する戦力を消滅させた

ロシア軍はアウジーイウカ周辺での戦いで失っているのは、兵士や装備だけではない。ここで失った兵力を、クリンキの橋頭堡破壊など他の作戦に投入するチャンスも逃している。

ロシア軍がクリンキでの勝利を期待できる最大の理由は、ウクライナ軍もまた大きな負荷にさらされていることにあるだろう。ウクライナ側は、アウジーイウカの防衛と反攻の継続を両立するのに苦戦している。

ロシアがウクライナに侵攻して1年8カ月が過ぎたが、「双方の戦力はほぼ互角だ」とCITは指摘。「どちらも本格的な突破口を開き、それを利用するだけのリソースを持っていない」と分析している。
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翻訳=溝口慈子

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