欧州

2023.10.31 09:30

ウクライナ軍、ドニプロ川対岸に「橋頭堡」設置 進軍の足掛かりに

遠藤宗生

ウクライナ南部ヘルソン州を流れるドニプロ川にあるカホフカ水力発電所とダム(Multipedia / Shutterstock.com)

ウクライナ南部ヘルソン州にあるクリンキは、ロシアが占領しているドニプロ川左岸に位置する小さな集落だ。

6月6日、ロシアの工作員の犯行とみられるカホフカダム爆破が起きたとき、下流にあるクリンキはすぐさま水浸しになり、住民のほとんどは高台に逃げた。

それがクリンキの災難の始まりだった。4カ月半後の10月19日、ウクライナ軍の第38海兵旅団がドニプロ川を渡り、クリンキに進軍した。

ウクライナ軍は、昨年後半にドニプロ川右岸のヘルソン州北部を解放して以来、ドニプロ川左岸に対して何度も小規模な襲撃を仕掛けている。通常は、ロシア兵数人を殺害したり捕まえたりし、いくらかの損害を与えた後、ロシア軍による大砲やドローンでの攻撃が始まるとともに撤退する。

だが10月19日の作戦は違った。ウクライナ軍の部隊は、襲撃した場所に駐留。以来、4.8kmほど横長に広がるクリンキに沿って支配を拡大している。

ロシア軍の第810親衛海軍歩兵旅団の兵士は、同旅団が置かれた状況を「非常に困難」と言い表した。「(ウクライナ軍は)絶えず大砲で攻撃し、クラスター弾も使っている。何より、擲弾(てきだん)を搭載した多くのFPV(1人称視点)ドローンや無人航空機(UAV)を四六時中飛ばして、負傷者の退避や弾薬の運搬を妨げている」

クリンキは、軍が対岸の敵陣を攻める際に、その足掛かりとして設置する「橋頭堡(きょうとうほ)」と呼ばれる拠点だ。重装備のウクライナ軍兵士が大勢でドニプロ川を渡り、4カ月前に始まった南部での反転攻勢を拡大するための拠点となっている。

ただ、橋頭堡は脆弱(ぜいじゃく)だ。大規模な重装備部隊が川を渡って陣地を広げ、防衛のための火力を追加するまでは、砲撃や空爆、そして戦車などを用いた機甲部隊による攻撃に弱い。第38旅団の歩兵部隊はドニプロ川を渡ったが、装甲車両や防空・工兵装備を持ち込んだ形跡はまだない。

独立調査機関コンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)は「特に敵が装甲車両を容易に展開できる環境では、装甲車両の支援なしでの大きな前進の試みは成功しない可能性が高い」と指摘した

つまり、ロシア軍にはまだ、ウクライナ軍の橋頭堡が拡大する前にそれをつぶす時間がある。
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翻訳=溝口慈子

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