アート

2023.08.02 17:00

ジャンルや常識を更新する、異端の美大教授──北野唯我「未来の職業道」ファイル

アーティスト兼デザイナーであり、武蔵野美術大学の教授である高橋理子さん

固定観念の呪縛を解きたい

北野:教授を務めている武蔵野美術大学で、学生たちにどういうことを伝えていますか?
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高橋:「寝るのも、ご飯を食べるのも忘れてしまうぐらい、まっしぐらになれる好きなことを見つけたらハッピーだよ」と。そのためにも自分のことを理解するための方法や、人生の歩み方といった本質的な学びを、日々のコミュニケーションを通じて伝えたいですね。私の学科の学生は、1学年約130人のうち7割が女子です。講義で「どんなことでもいいから質問をしてください」と言うと、「女性は結婚して子どもを産むとキャリアが終わってしまう。どうしたらいいですか?」というような質問がいくつも出てくる。そんな刷り込みがされている学生が多いのに驚きました。

北野:私も大学生と話をする度に「こうあるべき論」みたいなものにがんじがらめになっている学生が多い印象を受けます。美大でさえもそうですか。

高橋:急ぐ必要はないけれど、もっと自分が楽しめる「人生を捧げてもいいと思えること」を見つけてほしいですね。アーティストやデザイナーなど、ものを生み出す側を目指す学生には、「それは自分でつくりたいほど好きなものかを考えてほしい」と問いかけます。人が自主的に、能動的に考えなければ身に深く入っていかないと思うんです。
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この考え方は、私の活動全般についても言えます。例えば、手ぬぐいは、何にでも使える道具であるにもかかわらず、その名称から「手を拭くだけのもの」と捉える人が多い。それならば、その名を取ってしまおうと考えたんです。自由に使える1枚の布として、「100×35」とサイズを商品名にしました。手に取った人が自分で使い方を考えることを促しているのです。私の活動は、小さな仕掛けを散りばめて、人が能動的に考えるきっかけを生み出すことが目的なんです。

AIにはできない創作をする自負

北野:ものづくりに携わりながら、高橋さんはフラットなビジネスパーソンっぽい考え方もしますよね。その思考を育んだものは、何ですか。

高橋:きっと、ものづくりを当たり前にしていた家に育った環境かもしれません。左官職人の父と料理が得意な母、自宅で一緒に暮らす祖母は編み物や洋裁をする人でした。冬にセーターが欲しいときは、まず祖母と好きな色の毛糸を買いに行く。父と出かけるのはホームセンター。工具や材料が日常的にある環境で過ごしていました。
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文=神吉弘邦、北野唯我 写真=桑嶋 維

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