アート

2023.08.02 17:00

ジャンルや常識を更新する、異端の美大教授──北野唯我「未来の職業道」ファイル

アーティスト兼デザイナーであり、武蔵野美術大学の教授である高橋理子さん

小さなときからクルマも好きで、弟たちと3階建て自動車の設計図を描いていました。バイクの免許を取った年のクリスマスには、父がサプライズで中古のバイクを買ってきた。家族から「女の子だからこうしなさい」と言われるようなこともなく、自由な環境でした。そう言えば、私、最近「デコトラ」を買ったんですよ。
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北野:えっ、トラックですか!?

高橋:すでに十分装飾されているんですが、さらに手を加える予定です。ボディはミラー加工、電飾も増やして、荷台も塗り替えます。その中は、工芸作家の友人たちの作品を使った正統的な茶室にするつもりです。外側は過剰なほど飾り立てているのに、中に入るとわびさびの空間。

私はこういう二面性を備えるもの、相反する要素が共存するものが好きで、それが私の作品にも表れていると思います。伝統と革新、いずれの良さも捨てがたい。それならば、どちらも「いいとこ取り」するのが当然なんじゃないかって。
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北野:いったい何のためにそんなデコトラを?

高橋:仕事を始めてから、初の「趣味」と言えるものかもしれませんね。10代のときは、明日学校に着ていく服を毎晩つくるほど服づくりが趣味だったけれど、いまはそれが仕事になったので。

北野:仕事の場面で、自分が1段階「上に行けた」と思う瞬間は、最近ありましたか。

高橋:学生と接する立場になったのは、とても大きな変化でした。「新しいものを生み出したいなら、失敗を恐れずにどんどん挑戦すべき」と学生に対して言っているのに「自分はどうなんだ?」と考えることも多く、それまでずっとやりたかった新しい絵を描き始めました。

描きたいのは結局、円と線。フリーハンドで描くゆがんだ線も嫌いな自分が納得できる円と線の「絵」に、試行錯誤しながら取り組んでいます。たとえ、この絵を何万通りも描き上げられるAIができたとしても、私にはAIが描けないものが描ける。AIにはない「私らしさ」を表現できるという自負をもって、新たな挑戦を続けています。

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文=神吉弘邦、北野唯我 写真=桑嶋 維

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