北野唯我(以下、北野):自分の職業をどう定義していますか?
大関真之(以下、大関):気になったことを、自分なりのアプローチで理解して研究したいので、東工大や東北大に所属しています。そういう意味では研究者でしょうね。ただ、研究だけに終わらず、必要であれば民間企業を立ち上げて量子コンピュータを応用するサービスまでつくっています。
北野:最初に量子コンピュータに触れたのは?
大関:2000年代に量子コンピュータないし量子アニーリングという技術が注目を浴び始めましたが、まだそのときは理論的な妄想で「こういうのがあったら、こんなことができます」という話でしかなかったんです。量子力学自体は学問として面白い。「重ね合わせの状態」だとか、測定するまでよくわからないとか。「そんなもの本当にあるのかよ?」と思っていました。教科書や計算上では理解していたけど、肌感覚としてやっぱりわからない。
そうしたら2016年、東京のカナダ大使館でスタートアップ企業が技術デモンストレーションするイベントがあって、そこに世界で初めて商用の量子アニーリングマシンをつくったD-Wave Systemsがやって来ました。何かすごいものを見せてもらえると思いきや、ここに実機がなくても構わない。インターネットを経由して解いてほしい問題をメールで送れば返ってくるんだと。じゃあ、実際にやってみよう。そうしたら「メールがエラーで返ってきた」みたいなレベルで一瞬だったんです。
ハチャメチャ難しい問題を解くのにどれくらい時間がかかるかというのは、経験上の肌感覚があるんですね。それを覆されたインパクトがあった。「本物だったら付き合ってみようか」と思ったんです。
北野:量子力学の入門本を読むと「そんなことある?」みたいな話が多いです。僕らが肌感覚で認識できる世界と全然違うじゃないですか。研究者とし てどんな感覚ですか?
大関:「世の中そうだったんだ」という感じです。あとは僕らは表層的なものしか感知できないんだな、と。結局「目で何かが見える」というのは光の粒が太陽だったり、ライトだったりからやって来て、いまここの表層部分だけを見せられている。「ずっとだまされているんだ」という感覚です。
研究者はやはり実験がすべてです。理屈で「そういうものがあるらしい」と言われたときにはあまり信じない。だけど「何べんやってもそうだ」と言われたら、「そうですか」と初めて認知する。そうした認知に基づき常識をアップデートし続けるのが、科学の最前線です。