テクノロジー

2023.04.13 17:00

「量子コンピュータ」到来後の未来とは──北野唯我「未来の職業道」ファイル

民間利用で日本に勝機がある

北野:日本では「2030年までに1000万人を量子 コンピュータの利用者にしよう」という実装フェーズに入りつつあります。

大関:僕らの研究は、ずっとアウトローだったんです。量子アニーリングマシンというものを、ある意味「信じる」というか。わざわざ量子コンピュータにやらせなくても、いまはスーパーコンピュータもあるんだし「何そんなに頑張っちゃってんの?」みたいに見られていた。でも、ずっと企業と共同研究をやって、たとえ小さくても「工場の最適化をやってみる」とか、「道路の渋滞解消について考える」とか、「津波からの避難経路をどう整備するか」といった課題にひとつずつ取り組んでいたんです。

北野:なぜ急に国が重要視したんですか?

大関:量子コンピュータの研究はアメリカがリードしているし、中国もすごい投資をして進めています。セキュリティや軍事技術で他国にリードされるとマズいからです。民間利用はそこまで考えられていない。そこに風穴を開けられるのは日本なんです。

北野:いま、どこで実際に使われているんですか?

大関:いちばん興味をもってくれるのは自動車業界です。彼らはいろんなレベルで業界再編を促されています。交通の関係もそうだし、材料の話もそう。欧米からは「電気自動車にしなさい」と言われている。「じゃあ、優れた電池をつくらなければいけない」といったとき、新しい研究優位性をもたなきゃいけない。量子コンピュータはそもそも原子や分子の動きを調べるために考えられたので、その力を利用すべきだという側面はあります。


北野:これからの課題は?

大関:問題を解くのは一瞬だけど、「少し待ってね?」という時間が長い。「このタイミングでこうしてください」「ああしてください」と指示しますが、そのプログラミングにすごく時間がかかります。

北野:問題そのものを突っ込むのが難しすぎるのか。

大関:組み合わせ最適化問題も「人生の何かを最適化してください」といったとき、「あなたの人生でこれまで何がありましたか?」と歴史を1から語らなきゃいけない。「世の中こうだから」と言いたいけれど、1枚の絵すら入力するのにも膨大な時間がかかってしまう。

北野:まだ世界を知らない赤ん坊みたいです。理論のほうには発展余地があるということですか。

大関:データのやり取りの仕方とか、工夫ですよね。そういうところからやり直すと、意外と発展するのではないかという段階です。そこさえクリアしたら、量子力学の性質である「重ね合わせの状態」だとか「特別な傾向のある乱数をつくれる」というのはこれまでにない魅力です。
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文=神吉弘邦 写真=桑嶋 維

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎私を覚醒させる言葉」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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