「対立を解く」が鍵? 持続可能経営のための新しい人事の形とは

ラーニングエッジ代表取締役 清水康一朗

新年度がスタートしました。4月は、入社や異動など人が動く季節です。日本企業の従業員エンゲージメントが、世界全体でみても最低水準にある現在(※)、人財をいかに有効に活用するかが経営者の重要な課題のひとつになってきました。そこで今月は、新しい人事の在るべき形について語ってまいりましょう。


「対立の人事」を抜け出そう!

前回のコラムでは、AIについて解説しました。AIが台頭する以前と以降に加えて、3年間におよんだパンデミックがもたらした在宅ワークやオンライン会議の定着により、働き方改革ががらりと進み、組織の考え方も、仕事そのものも新しい形が求められてきています。

そんな現在、弊社の経営講座やコミュニティを通して経営者の悩みのトップ案件として相談されるのが、会社VS社員や、部署VS部署との間で起こる「人の問題」です。実態としては、構造的に自然発生的に「対立(コンフリクト)が起きる構造」が内蔵された「対立の人事」になっていることが原因なのですが、職場においては、年齢、役職、立場、性別、部門、雇用形態、就労経験、能力などの分断によって対立が生じます。

「対立」を放置しておくと、社内でよかれと思って解決のためにまじめに議論していることが、単に非生産的な時間を過ごしているだけに終わっていて、なんだか嫌な感じの社風が生まれてしまうことに。問題ばかりに目が向いて、社員(特にリーダー層)が本質的なことを学ばないままだと、意味のない「対立」の会話が増えます。そして、生産性があがらないことで利益も上がらず、給料を増やせないといった「今の日本全体のような停滞状況」に陥るのです。

そこで職場の円滑化や組織の成長に役立つ取り組みとなる「コンフリクト・マネジメント」を意識してみてください。「コンフリクト・マネジメント」のステップとは、1. 最初に双方の論点を中立的に「ファクトベース」で把握する → 2. 次にどのように進めれば双方の利益をもたらすか「共通のゴール」(そもそもの目的)を考える → 3. 最後に実際の問題解決に臨む、というシンプルな流れです。

あるシステム会社の事例をお話しましょう。運用部門VS開発部門の間で「対立」が起きました。開発部門が作ったシステムに障害が発生した際に、運用部門に対して「マニュアル通りに実行して欲しい」というクレームに。ところが運用部門は、「新しいシステムは使いづらい」と真っ向から対立したのです。

そこで「コンフリクト・マネジメント」を行ったところ、増え続けるオペレーションに対して老朽化したマニュアルや非効率な手動作業が、新しい発見として浮上してきました。そこで、運用部門が視点を変えて、「お客さまへの正確でスピーディーな対応」を共通のゴールとして、開発部門共に新しいシステムの大部分のオペレーションを自動化させ、最新マニュアルに修正することで、運用コスト削減と相互メリットが生まれました。

何より、運用側と開発側の双方に「感謝の心」が芽生えたのです。これが「対立」を解消する「コンフリクト・マネジメント」の好例です。

(※出典:GALLUP “State of the Global Workplace 2021”)
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文=中村麻美

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