今だからこそ、「働く幸せ」を考える
コロナ禍で、社会が徐々に落ち着きを取り戻してきた近頃。ビジネスチャンスの到来とばかりに、意気込む経営者の方も多いことと思います。こんな今だからこそ原点に立ち戻り、改めて働く幸せについて考える意義があります。まず最初に、旧来の働く幸せとはどういうものだったかを伝えるために、20世紀型の経営スタイルについて振り返りたいと思います。20世紀型の経営スタイルは西洋哲学にルーツを持ち、株式至上主義や利益重視の経済を生み出してきました。そこでは、自身や自社の繁栄を優先する考え方があります。
一方で、日本人の多くが仏教または神道を信仰し、商売においてはもともと「三方よし」の考え方を重視していました。私たち日本人が代々重んじてきた経営スタイルは、西洋哲学に基づく20世紀型の経営スタイルとは、根本的に異なります。そのため日本人は次第に、「働く幸せ」を感じにくい状況へと陥っていきました。
2つの幸福の形、「ヘドニア」と「ユーダイモニア」
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、幸福には2つの形があると述べています。すぐに消えてしまう満足感を体現する「ヘドニア(快楽)」に対し、社会性を伴った幸せをもたらす「ユーダイモニア(生きがい)」。例えば、子供がおもちゃを欲しがり、与えられたらすぐに飽きて使わなくなるような、自らの物的欲求を満たす行為を「ヘドニア」だとするなら、豊かな人間関係やチームの一体感などを指すのが「ユーダイモニア」です。つまり、「ユーダイモニア」をいかに構築していくかが、ウェルビーイングの考え方だと私は思います。世界保健機関憲章では、ウェルビーイングについて次のように表現しています。
「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. ━━健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます(日本WHO協会訳)」
経営者やビジネスリーダーは、企業としてユーダイモニアをいかに実現するかを考える必要があります。
社員みんなで幸せになろうよ!
2019年、アメリカの財界ロビー団体「ビジネスラウンドテーブル」は、株式至上主義からの脱却を宣言。それを私は、「みんなで幸せになっていこうよ」という全世界へ向けたメッセージだと理解しています。ちょうどその頃から、ウェルビーイングというワードがさまざまなビジネスシーンで使われるようになり、ついには世界的なトレンドワードとなりました。結果、いかに競合を出し抜いて勝つかではなく、いかに幸福感を感じられるか、そうした価値観が問われる時代へと変わりました。今、経営者に求められているのは、「社員の幸福の感じ方を変えていくこと」です。