「新たな顧客層の存在が鍵」
自動車メーカーはこれまで、販売ネットワークの維持に巨額のコストをかけ、世界中で高品位なディーラーを運営してきた。しかし、新たな購買層はネットやビデオゲームで育った世代にシフトしている。実車の試乗を必須とすることは無く、メタバース空間でなら、高速道路さながらの走行や急ターンなどの試乗体験を安全に行うことができ、車種の色やオプション装備品も試装しながら、検討することができる。
また、メタバース店舗でも、近隣ディーラーのセールススタッフがアバターとして接客にあたることで、実車の引き渡しや点検時といった実店舗での対応時にも、普段メタバース店舗内でなされていた会話が継続できる。二つの店舗でシームレスに顧客対応する仕組みを構築することが可能だ。
効率よく、購入の決断からローン等々契約まで完了することを好む顧客層の存在も実証されてきた。
先駆けはFIAT 日産も実証実験を開始
先んじてメタバース・ストアを導入したのは、ステランティス傘下のフィアットだ。米メタバース企業のTouchcastおよびマイクロソフトと共同で開発した「FIAT Metaverse Store」を昨年12月に母国イタリアで先行ローンチし、1月ラスベガスで開催されたCES 2023でのお披露目の後、3月にはフランスでオープンした。他の市場にも2023年内で展開していく予定だ。
日本勢でも、日産が車選び・試乗から購入契約までをメタバース上で行う新たなプラットフォーム「NISSAN HYPE LAB(ニッサンハイプラボ)」の実証実験を3月から(6月30日まで)始めている。
人気ゲーム「Fortnite」を運営する米Epic Gamesの3D制作ツールであるUnreal Engine 5で開発し、高品質な空間表現を実現しているという。
インテリア業界にもニーズ
欧米では、インテリアや家具、大型家電の販売でも、メタバースの導入が進展している。顧客が自らのリビング、寝室や台所の写真をアップロードすれば、ほしい家具や内装建材、大型家電がどのようにフィットするかをメタバース空間で試してから購入に進むことを可能にし、販売員アバターも登場して、選択や購入をサポートする仕組みが導入されている。
更に普及が進めば、従来は不可欠であった大型展示場の縮小が可能となる。この業界においてもメタバースの可能性が評価されている。
対して日本では
こうした国際市場の潮流に対して日本では、未だメタバース店舗の導入には終身雇用制や商慣習などの理由から、保守的な姿勢をとる企業が多い。コンプライアンスやセキュリティに関するリスクについても、大手企業が舵を切れない理由であろう。もちろん冒頭で述べた海外の倍以上とも言われるほどの高額なメタバース構築費用や時間・労力の問題も大きな壁としてある。だが、前述のアルマーニ、ランコムほかコカ・コーラやP&Gなどグローバル企業へのメタバースコマース導入実績を持つ「ByondXR」社は、既に日本企業の海外法人から複数の受注があり、CEOのノーム・ラバビ氏は、今後日本市場でも「低価格で高品質なメタバース空間を提供すれば、必ずマーケットシェアが取れると確信している」と大きな期待を寄せているという。
ByondXRは、即時性と空間再現技術で定評のある、世界市場で活躍するイスラエルのスタートアップ企業だ。
IT大国として知られるイスラエルだが、メタバースコマースの構築でもイスラエル系企業がシェアを獲得しているという。何故だろうか?