神経科学の研究者が作ったスマホを顕微鏡にするキット

DIPLEで撮影した細胞の拡大画像(SmartMicroOptics)

ポータブル顕微鏡は他にもあるが「コストパフォーマンスは自分たちが最高」だとアントニーニは信じている。プラットフォームと光源、レンズの入ったキットは約60ドル(約8000円)から155ドル(約2万1000円)で販売されている。これは、教室に1台顕微鏡を買うのと同じ金額で、生徒1人が1台ずつ顕微鏡を持てることを意味しているとアントニーニは話す。

会社は何度か浮き沈みを経験した。BlipsとDIPLEは当初Kickstarterプロジェクトとして立ち上げられ、一定の成功を収めたが、その後パンデミックに襲われた。その結果、今やよく知られている特定部品のサプライチェーン問題が起きただけでなく、ユーザーの使用目的にも変化をもたらした。

たとえば、SmartMicroOpticsがシラミ治療用シャンプーのメーカーと提携したある宣伝キャンペーンで、Blipsのレンズとシャンプーをセットで提供した。そうすることで子どもたちや家族は、シラミがシャンプーによって駆除されたかどうかを調べることができる。ところがパンデミック期間中、シラミは大きな問題ではなくなった。子どもたちが学校に集まってシラミに感染することがなくなったためだ。

近年では研究者や医療従事者が、DIPLEをより高度な方法で使い始めている。米国では細菌性腟炎の検査に、ルワンダとコスタリカでは水質検査に使用されている。イタリア、ピサ大学の研究チームは、マラリアの検出にDIPLEを応用する試みも行った(臨床使用には認可が必要)。

DIPLEの携帯性は、遠隔地や資源の乏しい環境で有用であり、光源のバッテリーは2日間の連続使用に耐えられるとアントニーニはいう。また携帯型システムは、野外標本の事前チェックにも有効で、標本を実験室に持っていく代わりに顕微鏡を現地に持っていくことができるとのこと。もちろんDIPLEは、機能的には従来の顕微鏡にかなわないが、補完する役割を果たすかもしれない。

事業を拡大できたら、ユーザーの要望に応じて目的に特化したキットを作りたいとアントニーニは考えている。たとえば、海洋生物学者は対象物との作動距離の長いレンズを欲しがっているし、農学者は土壌構造の調査に特化したツールを要求しているという。

もし、すべての生徒と科学者、さらには好奇心が強いだけの人も、ポケットに入れて顕微鏡を持ち歩けるようになれば、自然界があらゆる人に開放されるすばらしい可能性が開けるだろう。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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