サイエンス

2023.03.24 14:00

神経科学の研究者が作ったスマホを顕微鏡にするキット

DIPLEで撮影した細胞の拡大画像(SmartMicroOptics)

DIPLEで撮影した細胞の拡大画像(SmartMicroOptics)

始まりは、ニューロサイエンス(神経科学)の実験室だった。

アンドレア・アントニーニは、ジェノヴァのイタリア技術研究所(IIT)で他の神経科学者とともに内視鏡観察を研究していた。体内の臓器を顕微鏡的に画像化する手法だ。しかし、内視鏡観察の分野は比較的小さかったので、彼は何か大きいことをやりたかった。

顕微鏡室であれこれいじっていたある日、彼はこのレンズをスマートフォンで使うことを思いついた。それは彼が大きいことを始めた瞬間だった。「テクノロジーを使って消費者向け商品を作るチャンスだと思いました」

それは、基礎的、探索的な研究で生まれたアイデアが、まったく別のニッチ市場に生かされる一例だったとIITニューロサイエンス・グループの責任者、トマッソ・フェリンはいう。そのグループでは光感受性のタンパク質を使って、脳が感覚情報を処理する方法を解明する研究をしていた。彼らはこのニッチを埋めるべく「スマートフォンを持ち運びできる強力でデジタル顕微鏡に変える」ために、3Dプリントで非常に柔らかいポリマーレンズを作り始めた。

そして2015年、2人はスピンオフしてSmartMicroOpticsを立ち上げ、1年後にアントニーニはフルタイムで働き始めた。後に彼の妻が管理業務担当として、マーケティング専門家とともに加わった。

柔らかなレンズは「Blips」という製品になった。フィルムにつけられた小さなレンズを、スマホやタブレットに貼り付ける。モデルによって倍率8倍から45倍まで、最高3マイクロメートルの分解能で見ることができる。貼り付けてすぐ使える非常にシンプルな製品だ。

Blipsは、より高度なモバイル顕微鏡キットへと発展し、1マイクロメートル以下の詳細を見ることが可能になった。そのシステムがDIPLEだ。同製品の箱は「システムの機械構造」でもあるとアントニーニは説明しながら、およそ1分間でスムーズにキットを組み立てた。バッテリー電源の光源を内蔵したこの筐体は、プラットフォーム(「ステージ」)の支持台として機能し、そこにレンズをねじ込んで使用する。

モデルによって、スライドガラス、昆虫、植物、血液標本の入ったプレパラート、顕微鏡用マイクロルーラーやピペット、ピンセットなどがキットに入っている。キット全体の重さは約500グラムで中学生でも簡単に組み立てられる。そしてもちろん、スマートフォン向けに作られているので、拡大された像は写真や動画で撮影できる。


SmartMicroOptics
次ページ > その携帯性は遠隔地や資源の乏しい環境で有用

翻訳=高橋信夫

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事