なぜ日本でラグジュアリーが育たないのか、という問いの限界

高級ブランド店や宝飾店が立ち並ぶパリのヴァンドーム広場(Getty Images)

中野:1925年のパリ万博のときに、シャネルとゲランが結託して「芸術の都、パリ」とブランディングした効果が後々まで効いているわけですね。フランスというブランドを底上げしたことで、結果としてシャネルもゲランもブランド価値を上げることに成功したエピソードを思い出します。

山田:もうひとつの伝統技術の問題ですが、これはラグジュアリーにかぎらず、ビジネスと人権の問題としてグローバルでは話題になっています。サプライチェーン上流の海外取引先での不正や搾取について、日本企業もきちんと対応しなければ足元をすくわれます。一方で国内に閉じている場合は、現状把握さえ遅れています。個々の事例に行政が対応するには、現実問題として人手が足りないのです。

これは環境問題と似ていて、消費者の注意を喚起してもらって、消費者から「倫理的」にやっている企業が選ばれるような仕組みづくりが必要です。独禁法や下請法などに明らかに違反していないと手をつっこめないのです。

コロナになって鎖国されたらマスクも作れないことがわかり、繊維・アパレルも国内調達の必要が叫ばれるようになっています。政府の経済政策はデジタル、グリーンばかりではなく、足元の従来産業を守ることも大事ですね。

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中野:意識喚起はジャーナリストの仕事ですね。新しい時代にふさわしい日本のラグジュアリーのために、政府に期待してよいことと、民間でやるべきことを教えていただけますか?

山田:政府にラグジュアリーのプロはいません。日本は官民の間の壁が厚く、欧米では民間出身者が政府の要職に就くことが当たり前に行われていますが、日本はこの点でも非常に遅れています。ノウハウを政府に頼ることはできません。

政府に補助金を期待する向きもあるかもしれませんが、ラグジュアリーに限らず、税金を使うことには責任が伴います。リスクの部分で公的なお金を頼っていたらサステナブルなビジネスになりません。何を頼れるかといえば、人材育成支援やデータベース作り、アワードや、首脳外交の場面での活用などのアナウンス効果、でしょうか。

中野:ありがとうございました。

さて、安西さん、以上のようにお話を伺ってまいりました。旧型の枠組み内での議論だと思いますが、少なくともこの枠組み内で感じていた私の疑問はいくらかクリアになりました。新・ラグジュアリーという視点から、ご意見をいただけますでしょうか?
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文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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