なぜ日本でラグジュアリーが育たないのか、という問いの限界

高級ブランド店や宝飾店が立ち並ぶパリのヴァンドーム広場(Getty Images)

3つ目は、伝統技術に関連して「これは環境問題と似ていて、消費者の注意を喚起してもらって、消費者から『倫理的』にやっている企業が選ばれるような仕組みづくりが必要です」という指摘です。19世紀の英国でウィリアム・モリスが先導したアーツアンドクラフツ運動が、21世紀の新しいラグジュアリーの参照モデルになると『新・ラグジュアリー』で書いたことと重なります。

これはサステナビリティがもはや自然環境だけでなく、社会や文化など多くの要素との絡み合いのなかで評価していく動向と一致する話です。だからこそ、適合への難度があがっています。

例えば、EUではサステナビリティを裏付けるエビデンスなく「わが社の製品はサステナブルである」と宣伝を行えば、誇大広告として罰せられる、グリーンウォッシュが起訴の対象になっているのです。そして、来年から実施されるEU指令によれば、EUの各企業にサステナビリティレポートが義務付けされます。かつトレイサビリティの義務も厳しくなります。

つまり、ラグジュアリー領域にある多くの有形無形の企業資産も洗い出しされることになります。企業にとってかなりの負担です。

Chris Redan / Shutterstock.com

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伝統技術を踏まえた職人技を核とした小さなサイズの企業は、公的機関からの助成金などを得ながらEU指令に対応していくか、あるいは大きなグループの傘下に入っていくか、大きな分岐点に立たされることになります。そして、欧州市場でビジネスしたいかどうかに関わらず、日本の中小企業にもこの現実は迫ってくるはずです。

しかし、とても厳しいリアリティに直面するからこそ、ラグジュアリー領域の企業にとっては挑戦の価値があるという見方もできます。文化創造に結びつく新しいモデルの実現を期待されているのがラグジュアリー領域なので、ここでできなかったら誰が達成できるのか? ということなのです。

ある特定の分野が大企業だけに独占される現象はいくつもありますが、旧型ラグジュアリーはいざしらず、殊、新型ラグジュアリーにおいてはあてはまらないでしょう。

何度も繰り返しますが、現実は見方を変えれば意味を変えることができるとの認識にたち、それが新しい道を探るのがラグジュアリースタートアップの動機になっていることを明記しておきたいです。

文=中野香織(前半)、安西洋之(後半)

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