ビジネス

2023.03.03

「無意識バイアス」にビジネスで冷や汗 読者投稿に心理学者相川先生が応えた

東京学芸大学名誉教授 相川充氏(写真提供:レアリゼ https://www.realiser.co.jp/)

太井円子(仮名・エンジニア)さんからの投稿



娘のA子はとてもおしゃれ好きで、服をとても大切にしています。私の母はそんなA子の姿を見ては「これ、好きなお洋服に使いな」とお小遣いを渡したり、A子が気に入っている洋服を直したりしてくれます。

ほつれた糸があれば直し、汚れがあれば丁寧に洗って落とす。いつも「ありがとうおばあちゃん!」と、とびきりの笑顔を見せてくれるのがうれしいようなのです。

しかし、今日はA子の様子が違います。私の母が昨日補修したジーンズを見て、困惑し、涙を見せています。「おばあちゃん……。ジーンズだけは、穴が空いてても直さなくて大丈夫だよ」。


―ビジネスシーンでのことではないのですが、ダメージジーンズに対する世代間ギャップ、のお話でした。

相川先生のアドバイス


ファッションの流行は、時の流れとともに、次々と変化します。今はダメージジーンズがもてはやされていても、数年後には誰も見向きもしなくなるかもしれません。太井さんのお母さんと、たぶん同世代の私は、ジーンズをはくことはあっても、ダメージジーンズは、恥ずかしくて、はけません。服に関する私の「情報のかたまり」の中に、「穴が開いていないこと」という情報がしっかり組み込まれているからです。私にとっては、穴の開いたジーンズは、人前に出る服とは言えません。

この記事を書くために、ネット検索をしてヒットした「ダメージジーンズの作り方」を読みました。その文章の中に「カミソリで何度もガリガリ引っ搔きます」とか、「おろし金が使えます」という記述がありました。これを読んで私は「どこが作り方なんだ。壊し方じゃないか」と言いたくなりました。

Engin Ozber / Getty Images

Engin Ozber / Getty Images


時の流れとともにファッションの流行が変化するのは、時の流れとともに、価値観が変わるからです。価値観が変わるので、それぞれの時代に生きる各世代の価値観に違いが生じて、世代間のギャップの悲劇が起こります。

太井さんのお母さんにとっては、「穴が開いていない服が、価値のある服」ですから、穴の開いたジーンズは、価値が損なわれた服です。穴が開いたジーンズを繕うことは価値を取り戻す行為です。でも、太井さんの娘のA子さんにとっては「穴が開いたジーンズが素敵だ」という価値観がありますから、悲劇が起こってしまったのですね。

ダメージジーンズをダメにされたA子さんは、かわいそうですが、孫の笑顔を期待して針と糸を持ったおばあちゃんも、A子さんの涙を見て悲しかったでしょうね。

時の流れとともに変化する価値観の違いが生む、世代間ギャップの悲劇。この悲劇は、ダメージジーンズの例のような家庭内だけではなく、1つの集団の中に、古い世代の人たちと、新しい世代の人たちが共に居る場所であれば、起こり得ます。

会社や組織やグループの中で起こった世代間ギャップの悲劇が、会社や組織の存続そのものを危うくした例もあります。世代間ギャップの悲劇は防ぎたい出来事です。
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文=相川 充 編集=石井節子

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