相川先生のアドバイス
ファッションの流行は、時の流れとともに、次々と変化します。今はダメージジーンズがもてはやされていても、数年後には誰も見向きもしなくなるかもしれません。太井さんのお母さんと、たぶん同世代の私は、ジーンズをはくことはあっても、ダメージジーンズは、恥ずかしくて、はけません。服に関する私の「情報のかたまり」の中に、「穴が開いていないこと」という情報がしっかり組み込まれているからです。私にとっては、穴の開いたジーンズは、人前に出る服とは言えません。
この記事を書くために、ネット検索をしてヒットした「ダメージジーンズの作り方」を読みました。その文章の中に「カミソリで何度もガリガリ引っ搔きます」とか、「おろし金が使えます」という記述がありました。これを読んで私は「どこが作り方なんだ。壊し方じゃないか」と言いたくなりました。
時の流れとともにファッションの流行が変化するのは、時の流れとともに、価値観が変わるからです。価値観が変わるので、それぞれの時代に生きる各世代の価値観に違いが生じて、世代間のギャップの悲劇が起こります。
太井さんのお母さんにとっては、「穴が開いていない服が、価値のある服」ですから、穴の開いたジーンズは、価値が損なわれた服です。穴が開いたジーンズを繕うことは価値を取り戻す行為です。でも、太井さんの娘のA子さんにとっては「穴が開いたジーンズが素敵だ」という価値観がありますから、悲劇が起こってしまったのですね。
ダメージジーンズをダメにされたA子さんは、かわいそうですが、孫の笑顔を期待して針と糸を持ったおばあちゃんも、A子さんの涙を見て悲しかったでしょうね。
時の流れとともに変化する価値観の違いが生む、世代間ギャップの悲劇。この悲劇は、ダメージジーンズの例のような家庭内だけではなく、1つの集団の中に、古い世代の人たちと、新しい世代の人たちが共に居る場所であれば、起こり得ます。
会社や組織やグループの中で起こった世代間ギャップの悲劇が、会社や組織の存続そのものを危うくした例もあります。世代間ギャップの悲劇は防ぎたい出来事です。