ビジネス

2023.03.03 12:30

「無意識バイアス」にビジネスで冷や汗 読者投稿に心理学者相川先生が応えた

東京学芸大学名誉教授 相川充氏(写真提供:レアリゼ https://www.realiser.co.jp/)


新谷美佐子(仮名・会社員、企画系)さんからの投稿


ビジネスで、社外の五月女さんという人とずっとメールでやりとりをしていたことがある。1カ月余りの間、面談も電話での通話もないまま10数回のやりとりを重ねただろうか。

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ある日、それまでとは話題(件名)が変わってメールスレッドが新しく立ち上がり、五月女さんからのメールに「署名」が現れて(自分は途中から.ccされたので、相手の署名がずっと下方に行ってしまい、見えていなかった)気づいた。フルネームは「五月女峻輝」、男性だった(苗字にまどわされ、ずっと女性と思いこんでいた)のだ。


相川先生のアドバイス


漢字は、表意文字で、一文字一文字が意味を表しますから、苗字の中に、性別を意味する漢字が入っていると、その漢字の意味に引きずられて、その苗字の人の性別を、勝手に判断してしまうことが起こり得ます。新谷さんの場合も、「五月女」に「女」という漢字が入っていたために、「五月女」さんを女性だと思い込んでしまったのですね。でも、新谷さんが「五月女」さんを女性だと思い込んだ理由は、もう一つ、あります。

接触頻度の低さです。新谷さんが、「五月女」という苗字の男性に、これまでに何回か対面していれば、ビジネス・メールでの「五月女さん」とのやり取りでも、初めから男性を思い浮かべたかもしれません。

たとえば私の場合、大学教員として、毎年、何百人もの様々な苗字の学生名簿を読み上げてから本人の顔を見る、という体験を40年間近く繰り返しました。そのため、苗字の中の漢字で、当人の性別を連想するという脳の働きは、私にはなくなってしまいました。
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ただし、苗字のあとの名前では、私も、ついうっかり性別を判断したり、あるいは性別が判断できずに困惑したりします。私には、「千春:ちはる」という名前なのに男性歌手だと知って驚いた経験があります。

最近のキラキラネームになると、もう、お手上げです。男性名で「光宙」が「ぴかちゅう」と読むとか、「歩如」で「ぽにょ」と読ませる女性名などと言われると、困惑するばかりです。40年間近く、学生名簿を読み上げて当人と対面した経験が全く役立ちません。

話を苗字に戻しましょう。苗字は漢字で書かれ、漢字は意味を持ちますから、漢字で構成されている苗字は、性別だけでなく、“家柄”や封建時代の“身分”や“出自”あるいは、特定の地域や、特定の祖先を連想させることがあります。

しかし、苗字が連想させるこれらのものは、すべて昔の遺物です。現在に生きている私たち一人一人の属性については、何も表してはいません。現代に生きる私たちにとっては、苗字は、選んだものではなく、この世に生まれたときに偶然、与えられたものです。ですから、現代に生きている私たちにとって苗字は、人物を区別するための単なる記号の一部にすぎません。

苗字が、人物を区別するための単なる記号の一部であるからこそ、改名することは法的にも認められています。法的な手続きを踏めば、苗字も、名前も変えることができます。

また、国の政治の在り方に直接かかわる国会議員でさえ、本名の苗字を使わなくても、「ガーシー」や「水道橋博士」というような名前で、国会議員になることが法的に認められています。これも、苗字が人物を区別するための単なる記号の一部であるからことを示していると思います。

zepp1969 / Getty Images

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苗字は、人物を区別するための単なる記号の一部にすぎません。苗字でその人の祖先の職業を推測して、現代に生きている目の前の人の属性を判断したり、苗字に価値や意味を加えて解釈したりすることは、やめたほうが良いでしょう。苗字は、現代に生きている私たちの属性については何も表していないことを、強く、深く、心に刻んでおきましょう。
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文=相川 充 編集=石井節子

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