ビジネス

2023.03.03

「無意識バイアス」にビジネスで冷や汗 読者投稿に心理学者相川先生が応えた

東京学芸大学名誉教授 相川充氏(写真提供:レアリゼ https://www.realiser.co.jp/)

東京学芸大学名誉教授、相川充氏は対人心理学が専門で、ソーシャルスキルに関する理論とトレーニングの研究で知られる心理学博士だ。

相川氏は「15秒小話で診断、ビジネスパーソンが自覚すべき「潜在的思い込み」とは」で「アンコンシャス・バイアス(潜在的な思い込み)」について、以下のように書く。

「私たちの頭の中には、様々な情報や知識や記憶などの「情報のかたまり」がたくさんあります。その「情報のかたまり」は、新しい情報に触れたとき、すでに頭の中にある情報と照らし合わせて矛盾がなければ、新しい情報をそのまま受け入れます。

ところが、あとからの情報が、すでにある「情報のかたまり」と矛盾すると、「情報のかたまり」は、「潜在的思い込み」に変容します。そして、あとからの情報を歪めたり、過小評価したり、無視したり、さらには、事実ではない情報を勝手に作り出したりします」

本記事内で、〝「情報のかたまり」が「潜在的思い込み」に変容した例〟について読者諸氏に公募を行った。結果、寄せられた体験、作話について、心理学博士の相川氏に読んでいただいた。

以下、「相川充先生の相談室」を開室する(読者からの投稿はスペースの関係で一部、編集させていただいた)。

*たくさんのご投稿、ありがとうございました(Forbes JAPAN Web編集部)。



坂本美恵子(仮名・会社員、情報系)さんからの投稿



三軒茶屋の街を顧客と並んで歩いていた時のことだ。古い、急な細い階段がついている、なんだか神保町にありそうな、1階が居酒屋の雑居ビルに「古本ビル」というプレートが見える。「ああ、ここ、昔は古本屋がいっぱい入ってたんですね……」と顧客に話しかけた次の瞬間、はっとした。「ふるもと」ビルだったのだ。

相川先生のアドバイス


同じ「古本」という表記でも、「ふるほん」と「ふるもと」では意味が異なりますね。漢字は、同じ表記でも意味が異なることがあり、専門用語では「同形異義語」と呼ぶそうです。漢字は一文字でさえ、意味が異なることがあります。

我が家のダイニング・ルームは床暖房です。そのことを伝えたくて、友達にメールで「床を温めるスイッチを入れた」と送信したところ、友達から「床を温めておくと、寝つきがいいよね」と返信が来ました。友達は、私のメール文の「床:ゆか」を「床:とこ」と読み、「床:とこ」を温めるために私が電気毛布か何かのスイッチを入れた、と誤読したようです。

漢字は一文字でさえ意味が異なることがあるのに、その漢字が2つ以上で熟語を構成すれば、「同形異義語」はたくさん生まれ、読み手にいろいろな混乱を引き起こします。

文字の表記にアルファベットしか使わない国から来た留学生たちが、しばしば嘆いていました。「日本語は、漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字と、4つも種類があるので、覚えるのが大変だ。とくに漢字は、同じ形なのに読み方や意味が違う!」と、腹立たしそうに言っていました。留学生たちの多くは、「日本語は、話せるようになっても、読むこと書くことは、長い間、日本に居ても、とても難しい」と言います。

日本で生まれて幼少期から漢字になじんでいるであろう坂本さんでさえ、「古本」で混乱するのですから、留学生たちにとっては、漢字は日本語習得の大きな壁です。

Viktoriya Abdullina / Getty Images

Viktoriya Abdullina / Getty Images


だからこそ、私は漢字が好きです。漢字だけでなく、ひらがなもカタカナもローマ字も使う、世界でも稀な日本語表記のことを、私は、アメリカやイギリスの知人たちに自慢してきました。「私たち日本人は、4種類の文字を駆使して、文章でのコミュニケーションのやりとりをしているんだよ」と。

「古本」を、「ふるほん」だと思い込んで、勘違いした坂本さんの体験は、勘違いにすぐに気づいて、実害はなかったのですから、「漢字文化の日本ならではの楽しい体験だった」ということにしましょう。軽い自虐ネタの一つにしてみては、いかがでしょうか。いや、この程度の漢字の意味の取り違えでは、自虐ネタにはならないかもしれませんね。
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文=相川 充 編集=石井節子

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