ビジネス

2023.01.31

15秒小話で診断、ビジネスパーソンが自覚すべき「潜在的思い込み」とは

Shutterstock

「ダイバーシティ」の時代、われわれは多様な価値や対象物に接し、真にバイアスを去った見方を手にし得ているのだろうか? あるいは自分でも気づかない思い込みで、ビジネスシーンで大きな失敗をしてはいないのだろうか?

対人心理学が専門で、ソーシャルスキルに関する理論とトレーニングの研究で知られ、『人づきあい、なぜ7つの秘訣?―ポジティブ心理学からのヒント―』(新世社)、『すみっコぐらしのお友だちとなかよくする方法』(主婦と生活社)など一般向け著書も多い東京学芸大学名誉教授、心理学博士の相川充氏に以下、アンコンシャス・バイアス(潜在的な思い込み)の弊害について、そしてそこから解放されるための方法についてご寄稿いただいた。「15秒で読める小話」によるテストもぜひご体験いただきたい。


私たちは「自分が見たいように」見ている

以下の「ある晴れた日のドライブ」という話を読んでください。

「ある晴れた日のドライブ」


ある晴れた日のことです。父親が自分の息子を車に乗せて、鼻歌まじりでドライブを楽しんでいました。
車が交差点にさしかかったところ、信号を無視した大型トラックが右側から突っ込んできて車に衝突しました。父親は即死。息子は瀕死の重傷を負い、救急車で病院に担ぎ込まれました。

病院では、すぐに、腕の良い有名な外科医が呼び出されました。その外科医は、手術用のマスクと手袋をして勢い込んで手術室に入ってきました。そして、その男の子の顔を見たとたん、真っ青になって、こう叫びました。「こっ、この子は私の息子!」


この話を読んで、あなたは「ヘンだ」と思いませんでしたか? でも、この話にはヘンなところも、矛盾するところもありません。

私たちの頭の中には、様々な情報や知識や記憶などの「情報のかたまり」が、たくさんあります。その「情報のかたまり」は、新しい情報に触れたとき、すでに頭の中にある情報と照らし合わせて矛盾がなければ、新しい情報をそのまま受け入れます。

ところが、あとからの情報が、すでにある「情報のかたまり」と矛盾すると、「情報のかたまり」は、「潜在的思い込み」に変容します。そして、あとからの情報を歪めたり、過小評価したり、無視したり、さらには、事実ではない情報を勝手に作り出したりします。

冒頭の「ある晴れた日のドライブ」の話の中には、「腕の良い有名な外科医」という表現があります。もし、あなたの「情報のかたまり」の中に、「腕の良い有名な外科医」=「男性」という情報があれば、これが「潜在的思い込み」になり、「有名な外科医が男の子の顔を見て、この子は私の息子、と叫んだ」と書いてあるのを読んで、「あれ?父親は、交通事故で死んだはずなのに。この話、へんだ」と思います。

これに対して、「情報のかたまり」の中に、「女性でも、腕の良い有名な外科医がいる」という情報を持っている人は、「父親は、交通事故で死んでしまい、有名な外科医の母親が、手術室で自分の息子と対面してしまった話だ」と理解できます。

私たちの頭の中にある「情報のかたまり」は、私たち自身の都合や好みに合わせて簡単に「潜在的思い込み」に変容します。その「潜在的思い込み」で、私たちは自分の周りの人たちや出来事を、自分が見たいように見ています。性別や職業や国籍などに関する差別意識や、会社や組織の名前に対する偏見などは、「潜在的思い込み」が、自分が見たいように相手を見た結果、生まれるのです。
次ページ > 日本人にありがちな思い込みは?

文=相川 充

ForbesBrandVoice

人気記事