対人心理学が専門で、ソーシャルスキルに関する理論とトレーニングの研究で知られ、『人づきあい、なぜ7つの秘訣?―ポジティブ心理学からのヒント―』(新世社)、『すみっコぐらしのお友だちとなかよくする方法』(主婦と生活社)など一般向け著書も多い東京学芸大学名誉教授、心理学博士の相川充氏に以下、アンコンシャス・バイアス(潜在的な思い込み)の弊害について、そしてそこから解放されるための方法についてご寄稿いただいた。「15秒で読める小話」によるテストもぜひご体験いただきたい。
私たちは「自分が見たいように」見ている
以下の「ある晴れた日のドライブ」という話を読んでください。この話を読んで、あなたは「ヘンだ」と思いませんでしたか? でも、この話にはヘンなところも、矛盾するところもありません。
私たちの頭の中には、様々な情報や知識や記憶などの「情報のかたまり」が、たくさんあります。その「情報のかたまり」は、新しい情報に触れたとき、すでに頭の中にある情報と照らし合わせて矛盾がなければ、新しい情報をそのまま受け入れます。
ところが、あとからの情報が、すでにある「情報のかたまり」と矛盾すると、「情報のかたまり」は、「潜在的思い込み」に変容します。そして、あとからの情報を歪めたり、過小評価したり、無視したり、さらには、事実ではない情報を勝手に作り出したりします。
冒頭の「ある晴れた日のドライブ」の話の中には、「腕の良い有名な外科医」という表現があります。もし、あなたの「情報のかたまり」の中に、「腕の良い有名な外科医」=「男性」という情報があれば、これが「潜在的思い込み」になり、「有名な外科医が男の子の顔を見て、この子は私の息子、と叫んだ」と書いてあるのを読んで、「あれ?父親は、交通事故で死んだはずなのに。この話、へんだ」と思います。
これに対して、「情報のかたまり」の中に、「女性でも、腕の良い有名な外科医がいる」という情報を持っている人は、「父親は、交通事故で死んでしまい、有名な外科医の母親が、手術室で自分の息子と対面してしまった話だ」と理解できます。
私たちの頭の中にある「情報のかたまり」は、私たち自身の都合や好みに合わせて簡単に「潜在的思い込み」に変容します。その「潜在的思い込み」で、私たちは自分の周りの人たちや出来事を、自分が見たいように見ています。性別や職業や国籍などに関する差別意識や、会社や組織の名前に対する偏見などは、「潜在的思い込み」が、自分が見たいように相手を見た結果、生まれるのです。