経済・社会

2019.07.06 08:00

顔も名前も出さず、リーダー不在 アップデートされた香港デモ 


Aくん自体は、本土派(中国が本土ではなく、香港こそが本土であるという立場の新しい民主派)を支持しているという。自決派(香港のことは香港で決めるという立場の新しい民主派)と呼ばれる雨傘運動のリーダーの一人であったジョシュアに対してはあまりいい感情を持っていないらしい。それでも、確信を持ってこう語った。

「私は組織や団体を作ってリーダーを生み出すことは警戒しています。結局、リーダーが登場すると、その人物で人が集まるかも知れないが、離れていく人もいる。今回のように、逃亡反条例という一つの事件でまとまるほうが、うまくいくのです。今回の運動にリーダーは必要ないと思います」

普通選挙を求めて立ち上がった2014年の雨傘運動はなんの成果もなかったと言われている。だが、確かなのは、Aくんのような多くの若者を生み出したことだ。その精神は引き継がれて、活動方法は確実にアップデートされている。


21日夜、警察本部前に詰めかけた抗議者たち。深夜突然、解散していった。(筆者撮影)

最後に今回の運動でのキーワードを聞いた。

「水になれ、です」──そう言われて戸惑っていたら、Bさんの答えは、我々日本人もよく知る人物の言葉だった。

「ブルース・リーの言葉ですよ」

Be WaterはTシャツなどに書かれている、今回の運動の戦術的なスローガンとなっているのだ。

これは強い。小規模なグループがゆるやかに連携しながら、時に集まり、時に分散し、持続的な活動を続けていくのだ。雨傘運動のような長期的な占拠という手段は使わず、市民生活に配慮する。かといって、警官隊とは激しく対峙し、政府への抗議を続けていく。そんな彼らは「水」なのだ。いつもはおだやかに流れているが、いつでも形を変えていて、時に激しく、すべてのものを押し流す。

これからもいろんな形を変えて流れるのだろう。いつの日か、この香港市民の奔流は自由を手に入れるのではないだろうか。

香港では3人が抗議の意志を示すため自殺を図ったとされ、7月1日には立法会に一部の若者が突入するという事態になった。今後も事態の推移を見守っていきたい。

連載:Action Time Vision ~取材の現場から~
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文=小川善照

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