この『リーダーがいない革命』の当事者たちに話を聞くことができた。九龍地区の商業ビルの一室で会った二人の若者、Aくん(23)とBさん(36)だ。理系の大学生と、金融関係の会社員という二人の属性を見ただけでも、学生や政治団体などの組織の枠組みでの活動ではない。ちなみに、雨傘の時は「2日ほど現場に行っただけ」(Aくん)というほど2人は熱心ではなかったという。だが、現在、彼らが集める人数は2~300人にも上る。
取材を受けてくれた、ネット発生のグループの幹部、Aくん。(筆者撮影)
「確かに、その人数はいますが、すべて把握している訳ではありません。絶対に信用できるコアメンバーの20人くらいが常時連絡をとりあって、後は、そのメンバーがなにかの活動をするたびにそれぞれ集めたりしているのです」
きっかけは、そう語るAくんが高登討論区(香港の2ちゃんねるにあたるネット匿名掲示板)で、今回の条例改正について書き込みをしたことだった。
「激論が交わされた結果、有志と一緒に何かやらねばと思って動いたんです」(Bさん)
5月ごろから、フライヤーを作成して街頭で配布するなどの活動を自主的に始めたのだという。そこに強力な武器が登場する。「連絡はテレグラムを使います」(Aくん)
彼らはロシア製の暗号化アプリ、テレグラムで連絡を取り合ったという。このアプリは、通信内容が高度な暗号化技術で保護される上に、削除されると復元が困難になる。当局による監視の目を逃れて、後の訴追を避けるためだ。
「それも絶対に信用がおける人間だけが重要な情報にはアクセスできるように、階層を設定するのです」(Aくん)
彼らは街頭での配布活動さえ、口元にマスクを付けて行なう。雨傘の時とは、状況がまったく違うのだ。もちろん、取材にあたって、顔写真も拒否された。
「雨傘の時は現場以外での逮捕はありませんでしたが、旺角の事件以来、何年もたってから逮捕されるようになりました。顔と名前を特定されることはリスクです」(Bさん)
雨傘の時には、学生たちのグループが思い思いの組織名入りのTシャツを揃えていのだが、彼らは名前すらないという。
「対外的に名乗るような名前はありません。そういった必要もないからです。さらにいえば、リーダーもいません。もともと私が声をかけてネットを介して集まったのですが、私はリーダーというよりは、コーディネーターですね」