世界が見過ごす北朝鮮の「もう一つの」大量破壊兵器

トランプ米大統領(左)と金正恩朝鮮労働党委員長(右)

中国には、「北朝鮮には2つの大量破壊兵器がある」という冗談がある。一つは核兵器、もう一つは結核だ。そして、境界も国境も関係なく空気感染する結核にはもう一つ、(治療薬が効かない)多剤耐性結核がある。さらに北朝鮮では、マラリアとB型肝炎の感染率も非常に高い。

ドナルド・トランプは6月30日、米国の現職大統領として初めて北朝鮮を訪問。金正恩朝鮮労働党委員長と会談し、非核化協議を再開することで合意した。だが、北朝鮮が世界に大量の死者を出しかねない力を持ち、安全保障上の重大な懸念をもたらしているのは、保有する核兵器のためだけではない。

飢餓が迫る中で「万能薬」開発?

北朝鮮のメディアは、自国はHIV(エイズ)とがん、エボラ出血熱の全てを治療できる万能薬を開発し、これらの病気を国内から完全になくしたと報じている。だが、実際には同国では、何百万もの国民の命が危機にさらされ、清潔な水や食料、ワクチンといった基本的な生活必需品にも事欠いている。

こうした状態が続けば、人口およそ2500万人の北朝鮮では、6万人近い子供たちが飢え、何百万もの成人がすでに他の多くの地域で根絶されている感染症で苦しむことになる。同国の国民は40%が栄養不良とされている。

北朝鮮の脅威は、保有する核兵器だけにとどまらない。こうした「生物学的脅威」に関する協議も不可欠だ。

体制が隠そうとしてきた事実

北朝鮮がここ数十年、数多くの自然災害、人為的災害に直面してきたことは間違いない。1990年代の経済崩壊以降、国民の平均寿命は急激に短くなっており、韓国とは12年の差がある。また、北朝鮮人は平均身長が韓国人より2.5~7.6cm低いと推定され、それは主に、慢性的な栄養不良と極度の貧困のためとみられている。

入国を認められた医療関連の組織の多くが指摘するのは、壊滅的な打撃を与え得る病気の患者数の増加と、治療に当たる専門家の減少だ。そしてこれらが意味するのは、いずれ北朝鮮から国境を越えて、病気と人間への被害が広がり始めるということだ。
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編集=木内涼子

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