経済・社会

2019.07.06 08:00

顔も名前も出さず、リーダー不在 アップデートされた香港デモ 


目の前でそう語るAくんに、ジョシュア・ウォンのように、マイクを持って市民に訴えるような熱っぽさはない。理詰めで話すのが印象的な理系男子だった。

彼らは雨傘運動の時にはいなかった、今回の運動を支える、顔もない、名前もない、頭(リーダー)もいないグループなのだ。

「旺角の事件などのように、逮捕されると数カ月から数年の罪に問われます。これまで警察は市民の政治活動さえ押さえ込もうとしてきた」(Bさん)

ここでいう旺角の事件とは、2016年の旧正月の2月8日夜、屋台の取り締まりに端を発して、本土派の学生活動家などが起こした騒乱だ。投石に放火とエスカレートする学生たちに、警官は威嚇のため実弾を発砲した。この事件以降、過激な活動への市民の反発も起こっていた。

12日のデモは、そうした過激な活動だったが、確実に警察は潰しにかかっていた。

「呼びかけを行なった人物はデモの前夜に警察に逮捕されました。暴動を呼びかけたということで。だから、いま現在は、みんな書き込みには『警察をどこで見た』ではなく、『警察をどこで夢の中で見た』というような現実ではない報告の形にしています」

そう語るAくんたち参加者も、もはや笑うしかないが、これは警察とデモ隊の知恵比べの様相だ。「〇〇が足りない」「××でけが人がでた」などの最新情報も複数の掲示板を使い分けて、即時にやりとりされるという。

一見、小さなグループと個人ばかりが参加して無秩序に見えるが、その小さなグループがテレグラムを介して、全体としての決定にしたがって動いているというのである。

「この前の警察署前も、警察署を囲むということを実行しようというのは、30分ほど前にネット上で決まったのです。現場に行っても、次に何をするのか、私たちでさえ分からないのです」(Aくん)

これが、デモの現場で参加者たちが一様にスマホを凝視している理由だった。実は、21日の深夜、警察署を囲んだ時に、撤収するかどうか、現場は迷っていたという。その時の決定のプロセスを、Aくんはこう語る。

「ジョシュア・ウォンがマイクをとってこのまま包囲を続けるのか、それとも撤収するのかを群衆に聞いたんです。それでも、結論はでなかった。結局、撤収することは、テレグラムのほうで決まったんです。やっぱりリーダーは必要ない」
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文=小川善照

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