経済・社会

2019.07.06 08:00

顔も名前も出さず、リーダー不在 アップデートされた香港デモ 


デモは深夜まで続き、雨傘運動を煽動した罪で服役、出所してきたジョシュア・ウォン(黄之鋒・元学民思潮、現香港衆志メンバー)がマイクをもって話し始めた。私はその場を離れたが、この日のデモ隊は撤収を決定すると、早々にみんなどこかに散らばっいった。さきほどマイクをとったジョシュア・ウォン(黄之鋒)が撤退をよびかけたのだろうか。

翌日の金鐘は、前日のオキュパイが嘘のように日常をとりもどしていた。六車線の道路には車が行き来しており、警察本部の前にも黒いTシャツ姿の集団はいなかった。ただ、デモ隊が書いたと思われる落書きだけが残されていた。


警察官募集の壁画への落書き。ALL COP ARE BASTARDS(警官は皆ろくでなしだ) の意。(筆者撮影)

この日は、めだった動きはなく、香港の街は何事もなかったように、いつもの大陸からの観光客などが路上にあふれていた。警察本部前を封鎖したデモ隊は、なぜすぐに引いたのか。現地の報道をみても、いまひとつはっきりとしない。

ここまでの経緯を簡単にまとめる。デモの引き金になったのは、犯罪者を外国に引き渡す「逃亡犯条例」の改正である。この条例改正が実現すると、中国が犯罪者と認めた香港人、外国人が香港で逮捕されて、そのまま中国に送られることが法律上可能になる。市民は猛反発し、条例改正反対の大規模デモにつながった。デモで100万人以上(主催者発表)の参加者が通りを埋めつくした。

12日には『ピクニック』が呼び掛けられた。もちろん、ピクニックは隠語であり、実際は抗議デモだ。立法府前の広場への数万と言われるデモ隊が警官隊と衝突した。低致死性ではあるが警官隊が銃器を使用して、デモ隊が血まみれになる映像はすぐさま世界に配信された。

立法会は審議入りの延期を決定したが、追い打ちをかけるように、16日には、200万人(主催者発表)が参加した香港史上最大のデモが挙行された。これは、香港市民の4人に1人が参加した計算となる。

このデモを受け、香港行政長官のキャリー・ラム(林鄭月娥)は18日に会見し、市民に「政治的な混乱を招いた」として陳謝した。ところが、改正案の撤回だけはしなかった。さらに行政長官に抗議するため、冒頭の政府庁舎前の占拠と警察本部の包囲による抗議デモが発生したのだった。

「5年前の雨傘運動とは明らかにちがう。今回は、明確なリーダーがいない。そのため、烏合の衆となる危険性がある」

香港の取材者たちの間では、100万人デモの後、こうした懸念が語られていた。雨傘運動には、学連のアレックス・チョウ(周永康)や、学民思潮のジョシュア・ウォンというようなリーダーが存在していた。しかし、今回は、そういった明確なリーダーが存在しないのだ。
実際に、雨傘運動でのリーダーたちは、投獄されており、ジョシュア・ウォンなどは、17日にやっと出所してきたばかりだった。統制が取れない集団は、容易に暴徒となってしまうのだろうか。
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文=小川善照

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