そのポストヘルス時代に向け、超異分野の研究者たちによる究極の問いを追究する旅が始まった。
人間の設計図である遺伝子全体を意味するゲノム、タンパク質の総体を示すプロテオーム、さらには、神経回路全体を意味するコネクトーム……。
21世紀に入り、生命情報を網羅的に解析する技術が急速に発展、ヒトにまつわるビッグデータが量産される時代となった。しかし、そこから見えてくるヒトの姿は統計的なものにすぎない。「私」という個人の統合的理解を進めるためには、あらゆるデータを「個人」にひも付けて蓄積、分析する必要がある。その各領域のデータに横串を通すのが、ヒューマノーム研究所だ。
多様な分野の研究者たちが集結し、「人間とは何か」というテーマに挑む。
眠りは技術、だから上達できる
国内で睡眠障害に悩んでいる人は約3000万人といわれ、それによる経済損失は15兆円にものぼるという。しかし、現状、睡眠の解明はほとんど進んでいない。そこに目をつけたのが、自身も睡眠障害に苦しんでいたという研究者、小林孝徳だ。
小林は睡眠に関するさまざまな課題をテクノロジーで解決する、株式会社ニューロスペースというSleepTechベンチャーを2013年に立ち上げた。ニューロスペースでは、個々の睡眠状態を把握分析し、満足のいく睡眠をとるための技術を研修というかたちで提供する。
たとえば、ニューロスペースと吉野家との実験では、店長にウエアラブル端末と専用アプリを取り込んだスマホを提供する。そして、睡眠時にウエラブル端末を着用してもらい心拍や呼吸などの生体データを取得し、さらに、「何時に眠くなったか」「睡眠は十分と感じたか」などの主観的データをアプリで回答してもらう。これらのデータを基に個々人に合ったフィードバックがなされる仕組みだ。
「現在は70〜80歳程度で寿命を迎えていますが良質の睡眠がとれるようになれば、自然と100歳まで健康に生きることができると思っています」と小林は言う。
100年後の睡眠はどうなっているのか。電源を落とすように入眠できたり、活動したまま寝た状態をつくれたり、寝ながら得られる成長ホルモンや適切に物事を記憶したり忘れる能力を、寝ることなく得られるようになるのかもしれない─。小林は「未来はそうなっているかもしれませんが、その前に私たちが目指す『睡眠をデザインする』段階があるんです。
同じ欲求である食に感動があるように、眠りも五感と相関させながら感動を残していきたい。その世界の実現のために、まず『個人の最適な睡眠を知ること』。これが必要なんです」。