テクノロジー

2018.06.18 16:30

「人間の生き方」を科学する、ヒューマノーム研究所の挑戦


「便には人類の未来が詰まっている、まさに茶色い宝石ですよ」。

便は古くからその形や色で、健康状態を評価する有用なマテリアルであることは知られていた。しかし、便に含まれるおよそ100兆個もの腸内細菌の機能については、いまだ多くの謎に包まれている。

この謎をひもとき、腸内環境を適切にデザインすることで病気ゼロ社会の実現を目指すベンチャーが、2015年に山形県鶴岡市に設立された株式会社メタジェンだ。

腸内にどんな細菌がどれほどいるかを調べる「メタゲノム解析」と、その細菌によって産生される代謝物質を調べる「メタボローム解析」を組み合わせた独自の解析技術「メタボロゲノミクス」を開発。腸内環境と健康状態、食事との相関関係の観点から腸内デザインに挑んでいる。


ヒトの遺伝子は約2万5000個なのに対し、腸内細菌の遺伝子は約1000万個。腸の中で複雑な生態系をつくり、その代謝からビタミンや栄養素をつくるなど、さまざまな役割を担い、体内における「もう一つの臓器」といっても過言ではない。それほど重要にもかかわらず、腸内細菌の機能について、ゲノム解析やメタボローム解析によって研究され始めてから、まだ10年ほどしかたっていないというから驚きだ。

「理想の腸内細菌叢は?とよく聞かれるのですが、答えは一つじゃない。『理想は個人によって異なる』という考え方なんです」。メタジェンCTOの山田拓司は言う。CEOの福田真嗣も「健康な人の腸内細菌叢のバランスを調べたところ、ヒトによって異なることがわかりました。実は一卵性双生児でも腸内細菌叢のバランスは異なることが報告されている。つまり、生活習慣や環境が人によって異なるため、その人に有用な腸内細菌も異なるんです。だから、一概に理想の腸内細菌叢は語れず、その人個人にとってどうなのかが重要なんです」。

ヒューマノーム研究で生活習慣や環境と腸内細菌との関係を解き明かし、日々の何気ない生活から健康管理ができる「健康を意識しない健康社会」の創出を、彼らは目指している。
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文=谷本有香 イラストレーション=ニール・ウェッブ 写真=藤井さおり

この記事は 「Forbes JAPAN 「地域経済圏」の救世主」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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