テクノロジー

2018.06.18 16:30

「人間の生き方」を科学する、ヒューマノーム研究所の挑戦


全身を支える骨が、常に新たにつくられ、壊されて、動的に維持されていることは意外に知られていない。それを、骨形成と骨吸収という。このバランスが老齢になると骨吸収のほうに傾き、骨粗鬆症を発症するリスクが高まるといわれている。

そのバランスを保つため、適度な運動やカルシウムなどの栄養摂取、日光浴などが推奨されてはいるが、実際、「骨量とそれらの関係をシステマティックに語れるほどは解明できていない」と東京医科歯科大学大学院の篠原正浩は言う。

たとえば、重力がない宇宙空間では、宇宙飛行士の骨密度が低下することが知られている。実際にマウスを宇宙空間で飼育したところ、骨量が劇的に減少しスカスカになったという。現在、骨にかかる負荷が骨量維持に重要な役目を担っているだろうと、マウスに人為的に重力負荷をかけた実験を進めている。

また、閉経後の女性が1日5〜10回ジャンプすると、その瞬発的な負荷によって骨の退化が抑えられ、骨密度が増えるといわれている。ただ、メカニズムはいまだ多くが謎で、年齢に応じてどのくらいの負荷をかけたら骨が増えるのかという体系立てもなされていない。

人生100年時代において、「骨」は健康寿命を延ばす上で大変重要だ。なぜなら、平均寿命が医学の発展に伴い飛躍的に延びてきた一方で、健康寿命との差の原因の一つである要介護、つまり、寝たきり期間も拡大しているからだ。

その主因となっているのが、骨折などの骨をはじめとする運動器の疾患で、健康寿命を延ばすためには、骨の強化という観点から個人に最適化した運動や食事のプログラムを提供することが重要になる。

ただ、現状では気軽に骨密度・骨量を測る手段がない。そこで、篠原は骨代謝マーカーとよばれる因子7項目を測定することで、骨量と造骨・破骨のバランスを推測する数学モデルを開発した。「測定できればプロットができる、時間軸を加えれば変化がわかる、データが増えれば予測ができる、予測ができれば予防ができる」と展望を語る。

さらに今後、生活習慣や体質、腸内細菌叢などが骨にどう影響するかを総合的に考えていくという。既に、骨形成に重要なビタミンKは、その必要量の半分を腸内細菌が生産していることがわかっている。ヒューマノーム研究で、さらに個々人に適した骨の健康へのアドバイスができるようになるだろう。
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文=谷本有香 イラストレーション=ニール・ウェッブ 写真=藤井さおり

この記事は 「Forbes JAPAN 「地域経済圏」の救世主」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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