シリコンバレーのセクハラ裏事情 女と男と「無意識バイアス」

ウーバーのトラヴィス・カラニック元CEO(左)とシリコンバレーの女性問題の先陣を切ったエレン・パオ (Getty Images)


渡辺:そして真打ち、ハリウッドの大御所ハーヴェイ・ワインスタイン。テック業界じゃないけど。

奥本:あれはすごかったね。彼がプロデュースした映画はいろいろな賞を受けているし、奥さんは有名ブランドのデザイナーで子供も何人かいて、富と名声と幸せ、全てを手に入れた人みたいなイメージがあったのだけど……。

渡辺:今見たらオスカー受賞作が81本だって。

奥本:ハリウッド内部ではセクハラで悪名高かったそうなんだけど、彼の影響力が強すぎて誰も表だって糾弾する人はいなかったらしいよ。

渡辺:かなり裏で火消しもしてたみたいね。イスラエルの国家諜報機関のモサドでスパイをしてた女性を使って、誰が自分を告発しようとしているのかを調べてたとか。

奥本:彼の被害にあったと名乗りを上げた女性は84名もいるんだけど、そのリストにグウィネス・パルトロー、アンジェリーナ・ジョリー、アシュリー・ジャッドみたいな有名女優が含まれているのよね。

渡辺:元モサドまで投入したチームでもみ消し続ける意味があったわけだ。

奥本:警察に訴えた女優もいたけれど取り上げてもらえなかった、という話はショックを受けたわ。

渡辺:ワインスタインとパートナーを組んで雑誌をやってた女性がインタビューで「ハーヴェイが暴力的なレイプまでしてたというのは驚いた。女に手が早いというのは知っていたけれど、私の前ではハラスメントのそぶりも見せなかったから」みたいなことを言ってた。パートナーを組むくらい対等の立場にある彼女は尊重して、自分の下だと思う女性にはとんでもないハラスメントをしてたってことだよね。

奥本:それはそうでしょ。相手を見てしてるのよ。

渡辺:結局やっぱりセクハラって「いじめ」なんだよね。自分より弱い立場の人にしかしない。

奥本:本当にそう。そしてこの件で大きくなったのがソーシャルメディア上で自分が受けたセクハラを語る#MeTooムーブメント

渡辺:私のフェイスブックのタイムラインでも被害をカミングアウトしたアメリカ人の友達がいた。

奥本:アメリカのすごいトコロって、「この問題は社会的にちゃんと表に出して自分たちで変えていくべきだ」という意識が高くなったときに、それがムーブメントになるところだと思う。それで、本当に社会の規律や規範が変わったりするケースもあって、今後の動きに期待を持ってるわ。

渡辺:今回の件に限らず、アメリカでいろいろと弱者の権利が守られるのは、「それがアメリカという国だから」みたいに思われることもあるけど、実は歴史上どこかの時点でものすごい戦いがあって勝ち取ってきた権利なんだよね。例えば黒人の差別問題でも、座席が人種別になっているバスで白人側に座った黒人女性が罰金を取られたのを違法だと訴えて、最高裁まで争って勝訴して風向きが変わった。やっぱりそういう戦いがあってはじめて物事が動く。

奥本:確かに、そういう意味ではセクハラや女性差別って「大手を振ってこれはおかしいって主張していいのだっけ?」とか「おかしいと主張していじめられるのは自分?」と躊躇して諦める女性が大多数だったと思うのだけど、去年は女性たちの意識に大きな変化が起こっているのをひしひしと感じる。これまでみたいに泣き寝入りせず、ちゃんと表舞台で戦って権利を勝ち取っていこうとしているムーブメントをすごく感じた年だったわ。

渡辺:ただ男性側がちょっとかわいそうだと思うのは、過去何十年か分のセクハラや性犯罪を一気に暴かれているということ。芸能界とか政治の世界だと70年代、80年代のことが問題になったケースも多くて、もうまさに粛清って感じ。

奥本:なんでもそうだと思うのだけれど、した方はその罪を忘れて、された方は被害にあったことをずっと覚えてるものなのではないかな。「まあもう昔のことは水に流して」と言われても、自分にとって大切なものや人としての尊厳を傷つけられたことはトラウマとしてずっと残っている。傷はそんなに簡単に癒えるものではないと思う。

渡辺:話は変わって、どうですか、アメリカの会社で働いてセクハラはいかがでしたか?

奥本:幸いなことに私自身は心に傷が残るようなできごとはなかった。それに、ヤフーの米国本社でアジア・パシフィックをマネージしていた時は、上司のSVPが女性で同僚VPも7割が女性だったの。

渡辺:おお、すごい。女性が多い職場ってどういう感じ?

奥本:ものすごく話しやすくて、何を言っても真摯に受け入れてもらえて、遠慮なく意見を述べて、のびのびと話し合いや議論ができた。自分がチームの一員として尊重され信頼されているという実感はプロフェッショナルとしての自信にもつながったと思うの。雰囲気がオープンだからリスクを取ることに対する恐れがなくなって、大胆な戦略を遂行していい結果を産むことができたのよね。
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文=渡辺千賀、奥本直子

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