渡辺:2017年は怒涛のセクハラ・イヤーでありました。
奥本:シリコンバレーでセクハラが社会問題化したのはエレン・パオのケース以来だね。ベンチャーキャピタルのクライナー・パーキンズで働いていた彼女が、会社をセクハラと女性差別で訴えて当時シリコンバレーではものすごい話題になった。
渡辺:さっき確認したら、驚いたことに訴訟を始めたのが2012年で、裁判が公になったのは2015年なんだよね。そんな昔の話だったんだ。
奥本:本当にシリコンバレーの女性問題の先陣を切った人だったのね。
渡辺:判決はエレン・パオの負けだったんだけど、その影響はすごく大きかった気がする。
奥本:ベンチャーキャピタル業界は女性がすごく少なくて、でもそれが当然なことと扱われてきたのだけど、あの件で「女性に機会が与えられていないのでは」と話題になり始めた。女性の投資家やエグゼクティブが中心になって、シリコンバレーの200名のシニアレベルの女性にアンケートしたの覚えてる?
渡辺:ポッドキャストで聞いたな。
奥本:「積極的すぎる」と揶揄されたことのある人が84%、「女性だというだけで重要なミーティングに呼ばれなかった」ことがあるのが66%、「セクハラにあった」が60%。エグゼクティブでもこの結果なら、他の女性社員はもっと酷い目にあってるはず。
渡辺:日本だったらさもありなんって感じだけど、アメリカでもそうなのか。残念だな。エレン・パオはそんな中敢然と訴訟に打って出たと。
奥本:そうね。セクハラは示談に持ち込まれてるのがほとんど。それを公にしたのは意義があったと思う。
渡辺:あのケース、公開された訴状を全部読んだんだけど、「出張先で強引に関係を持たされた同僚と付き合うようになったが別れてしまい、その後彼は出世したのに自分はしなかった」というくだりがあってちょっと引いた。本当に強引なんだったらそこで訴えるべきじゃないの? とか、その後付き合うってどういうことよ?とか。
奥本:でもそれって訴えのごく一部だよね?
渡辺:そうなんだけど、この1点で私の中では訴え全体の信頼性が揺らいじゃったんだよね。エレン・パオってすごい変な人なんじゃないかと。
奥本:何かのカンファレンスで隣に座ったことがあるのだけど、ものすごい真剣にメモをとってて真面目そうな人という印象だった。
渡辺:私の知り合いにエレン・パオと仲良しな人がいて、彼いわく、彼女はすごくいい人らしい。それを聞いてちょっと考え直したんだけどね。
奥本:訴えにあった「ミーティングで後ろに座らされる」といったような仕事上の女性差別の話はありそうだなと私は思ったわ。
渡辺:私だったら先に会議室に行って前に座っちゃうんだけどな(笑)。その辺も含めて、私的には「男社会なんだから、それくらい当たり前じゃない?」と思ってしまったことが多い訴状だった。で、話を去年に移すと、ものすごい話題になったのが、ウーバーでエンジニアをしていたスーザン・ファウラーのブログ。
奥本:ああ、あれはすごくセンセーショナルだったよね。ウーバー社内でのセクハラや女性差別の話が、本人の言葉で実例をあげながら淡々と語られていて、ソーシャルメディアであっという間に拡散されて話題になった。