渡辺:「上司から露骨に性的な内容のメールが来たのを人事に訴えたのにスルーされた」とか色々酷い内容があったんだけど、私的に一番「ウーバーひどい」と思ったのは革ジャンの話だったな。
奥本:どんな話?
渡辺:彼女が所属していたエンジニアリングチームで全員に革ジャンを作ることになって、120人のうち女子が6人しかいなかったんだけど、最後の最後に「6人だと数量割引がないから女性の分はなし」ってことになったんだよね。これはあまりにせこい。というかただのいじめ。この一件で会社の雰囲気がわかるって感じ。
奥本:また変な話を覚えてるわね。
渡辺:あのブログの反響はすごくて、ウーバーが社内監査を入れたら結局20人くらいの管理職がセクハラで首になって、最後はCEOも辞任することになった。
奥本:あれ以降ウーバーからリフトに乗り換えたユーザも多くて、社会現象を起こしたという意味でも意義のあるブログだったね。
渡辺:訴訟って、時間がものすごくかかって疲弊したり、社会が必ずしも原告に好意的だとも限らなくて、訴えた方が傷つくことも多くて割に合わないイメージがあるよね。でも、ブログで思ったことを書くだけで圧倒的な影響がある。このやり方が効くということが世の中に分かったのは画期的だった。
奥本:スーザン・ファウラーは2017年のTIME誌のパーソンオブザイヤーにも選ばれてたものね。
渡辺:その後、私たちもよく知っている500 Startupsのデイブ・マクルアのハラスメントケースが出てきたのはちょっとショックだった。
500 Startupsのデイブ・マクルア(Photo by Getty Images)
奥本:彼は、500 Startupsの共同設立パートナーも女性だったのにね。
渡辺:ニューヨークタイムズに、複数の女性が実名で登場する大々的な告発記事が出て、すぐにデイブが「失言でしたすみません」みたいな謝罪ブログを出したんだけど、それを読んだマレーシアの女性起業家が「失言どころではないことを私にしたのを忘れたか」みたいな感じで怒りの長文告発ブログを書いて目も当てられない事態になってしまった。
奥本:結局デイブは500 StartupsのCEOを辞めるだけじゃなく、全ファンドのゼネラルパートナーも退任することになったよね。
渡辺:私は「そこまでしなくても」と感じたんだけど、そう思ってしまうのは日本で働いた後遺症なのだろうか……。それより「こいつはひどい」と私が思ったベンチャーキャピタリストのセクハラケースはBinary capitalのジャスティン・カルドベック。
奥本:どんな風に?
渡辺:社員や投資先のアントレプレナーの女性にセクハラしてて、最近上場したStitch Fixでも社外取締役をしてたんだけど、女性CEOからの苦情で退任させられてるんだよね。でも、表沙汰にしようとする女性や、記事にしようとする記者が出てくると、その度に「逆に名誉毀損で訴える」とか脅して黙らせるといったことを10年くらいしてきたらしい。ところが、実際に告発記事が出たら、今度は突然手のひらを返したようにいろんな人に謝罪メールを出しまくって、しかもそれがどれもほとんどコピペ風の同じ文章だったという……。
奥本:それはちょっと人間としてどうかという感じね。
渡辺:そう。結局、彼は自分が立ち上げたBinary capitalを辞めることになったんだけど、さらに投資家が資金を引き上げたりしてファンドが解体してしまったという激しい最期だった。
奥本:そういえばシリコンバレーの老舗ベンチャーキャピタル、Draper Fisher JurvetsonのJurvetsonもセクハラで辞任したね。
渡辺:自分の名前が入ってるファームを辞めるって相当なことだよねぇ……。今も社名はそのままだけど、なんだか微妙。
奥本:ベンチャー企業だとSoFiの社長もやめたね。20億ドル以上調達したのに。
渡辺:世の中に意義あるレンディング、みたいな良いイメージの会社だったのにね。もう誰が何をしてても驚かないって感じ。
奥本:まだくすぶっている噂もあるものね。