「人類における本当の問題は、旧石器時代の感情と中世の古臭い社会制度、神のようなテクノロジーを同時に手にしていることだ」これは社会生物学の父、エドワード.O.ウィルソンの言葉で、私たちが直面する複雑な時代状況を表しています。
AIや遺伝子工学など、近年、テクノロジーが飛躍的な進化を遂げる一方で、人間の感情や社会制度はそれに追いつけず、不均衡に陥っています。そうしたなか、私たちはビジネスでどのような未来を描けるのでしょうか。
未来は「予測」するものから「創造」するものへ
従来、ビジネスでは市場やテクノロジーの進化の予測に基づき、戦略を立ててきました。しかし、不確実性が増す現代では予測の精度が低下し、計画的な意思決定が難しくなっています。そのため「未来を予測する最善の方法は、自らそれを創り出すことである」という米国の科学者、アラン・ケイ(※)の考え方が重要になっているのです。
そこで近年、未来を積極的にデザインし、新しい可能性を提示する「スペキュラティブデザイン」の概念が注目されています。
この概念はデザインとアートの中間に位置し、英国の美大、Royal College of Art で教鞭をとっていたアンソニー・ダンとフィオナ・レイビーによって提唱されたものです。未来を正確に予測するのではなく、私たちが未来について考え、社会に可能性を投げかけ、議論を呼び起こすことを目的としています。
Royal College of Artへの留学時代、私は「スペキュラティブデザイン」について学び、自らの思考に大きな刺激を受けました。本稿では当時の授業で制作した作品やその制作プロセスを通じて、経営に生きる観点を読み解いていければと思います。
※ パソコンの父とも呼ばれ、オブジェクト指向プログラミング言語「Smalltalk」の開発や、携帯型ラップトップパソコン「ダイナブック」の発案者として知られる。