社会全体で考える出発点になる
未来を考える際、私たちのチームは「Future Forces」というフレームワークを用いました。これはあるテーマ(今回は食)を以下の5つの視点から分析し、未来の可能性を探るものです。
未来を考える「Future Forces」のフレームワーク

「Future Forces」のフレームワークに基づく5つの視点
環境的要因:畜産業が地球環境に与える影響の変化
技術的要因:バイオテクノロジーの進化と食の変化
社会的要因:人々の価値観の変化と食文化の未来
政治的要因:食料政策や倫理的規制の可能性
経済的要因:人口爆発・食糧供給の変化による市場の変動
これらの視点を踏まえ、地球環境と社会状況、それぞれが「改善する未来」と「悪化する未来」の計4象限をつくり、それぞれの未来を考えてシナリオを生み出していきました。続いてそのシナリオをもとに本物そっくりの記事や論文を作り、将来、発信されるかもしれないフェイクニュースをつくっていきました。
フェイクニュースをつくり、読むという工程を通して、未来について考える思考をさらに刺激していくのです。
「カウボーイカプセル」はコンセプトのユニークさから国際的な読者をもつスウェーデンのアート雑誌「Lint Art Collective」に取り上げられ、社会に発信されて議論のきっかけとなりました。
こうしてひとりでも多くの人々の目に触れ、人々が考えるきっかけをつくることが、スペキュラティブデザインの大切な役割です。未来の可能性を示し、それが現実となった場合にどのような影響をもたらすのかを、社会全体で考えるための出発点となるのです。
従来の課題解決型デザインとの違い、そして企業事例
スペキュラティブデザインは、未来の可能性を広げる「批評的デザイン」として位置づけられます。デザイン思考が「現状の課題解決」にフォーカスするのに対し、スペキュラティブデザインは「ありうる未来の可能性を考え、新しい問いを生み出す」ことを目的としています。
スペキュラティブデザインには社会へ批評的、倫理的・哲学的な問いかけをする作品が多く、現状、企業経営へ直接的に取り入れることにはハードルを感じる方がいらっしゃるかも知れません。一方で、未来の可能性を模索するプロセスは実際、企業経営にも活用され始めています。
これから紹介する企業では、スペキュラティブデザインで未来のシナリオを描き、技術やビジネスの長期的な方向性を探っています。
未来を創る企業経営の実践例
1.フィリップス:自律型医療の未来を探る
オランダのヘルスケア大手、フィリップスによる未来の医療技術のビジョンを探る代表的なプロジェクトに、「A Brief Speculation on Autonomous Healthcare(自律型ヘルスケアに関する簡単な考察)」があります。これは「あなたが病院に行く代わりに、病院があなたのところに来たらどうなるのか?」という問いから始まり、従来の医療提供モデルが抱える問題を提起。未来の医療システムの可能性について、業界内での議論を促進するための試みです。
プロジェクトには、臨床医から未来予測の専門家、サービスデザイナー、UXデザイナー、エンジニアまで、多彩なプロフェッショナルが参加しています。フィリップスは同プロジェクトを通じ、自律型のヘルスケアが技術革新だけでなく、患者体験や医療制度全体にどのような影響を与えるかを深く考察しました。
結果、「Autonomous Healthcare Vision and Health Mobility(自律型ヘルスケアと健康、モビリティ)」というビジョンを発表し、病院が院内での治療を必要とする患者のみを受け入れ、その他の患者のケアは患者のもとへ届ける新しい医療モデルを提案しています。


