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アート

2025.03.15 13:30

東大史上初、リアルなアートセンターの試み|今月のアートな数字

岡田猛|東京大学大学院 教育学研究科教授

岡田猛|東京大学大学院 教育学研究科教授

企画展、アートフェア、オークションなど多彩な話題が飛び交うアートの世界。この連載では、毎月「数字」を切り口に旬なトピックを取り上げていく。今回(3月号、1月25日発売)は東京大学から。日本の最高学府はアートにどう向き合っているのだろうか。

今月の数字|東京大学本郷キャンパス 通信機械室1・2階。解体前で電気も止まっていた建物が改装を経て、118日間、東大初のアート施設として稼働している。「短期間でも拠点がある意味は大きい」と担当の岡田猛教授。展覧会やトークなどが開催され、学生のみならず一般でも参加できる。
今月の数字|東京大学本郷キャンパス 通信機械室1・2階。解体前で電気も止まっていた建物が改装を経て、118日間、東大初のアート施設として稼働している。「短期間でも拠点がある意味は大きい」と担当の岡田猛教授。展覧会やトークなどが開催され、学生のみならず一般でも参加できる。

東京大学に2024年12月 、アートセンター施設が誕生した。といっても、真新しいものではない。春に取り壊しが決まっている本郷地区キャンパスの建物を、暫定的に活用するものだ。

主導するのは、19年に発足した東京大学芸術創造連携研究機構(ACUT)。その舵取りをする岡田猛教授は、長年、芸術創作プロセスの解明や芸術教育支援の研究を続けてきた。欧米の総合大学には芸術学部があるが、日本では明治以降、分離されている。

米カーネギーメロン大学で学んだ際、芸術専攻でない友人が演劇コースを受講して感化されたのが強く印象に残り、「座学でなく、身体性や情動を伴うアートの授業が必要ではないか」と、機構を立ち上げた。人文から理工まで7部局が連携し、2024年度は、演劇、音楽、美術、ダンスなど、全学で合計30ほどの実技の授業を実施。ほかにも、企業との共同研究やシンポジウムを開催するなどして社会と連携している。

読解力や言語化、数値化などの能力に長けている東大生だが、体をつかって社会に向けて発信することには不慣れだったりする。彼らにとってはその過程で「わからないことと出会うこと」も新鮮な刺激となり、例えば文学部の美学の教授からは「ACUTの授業を受けた学生の卒論のテーマは全然違う」と評価を得ている。

「アートは情動的なもので、数値では測りきれない」と話す岡田は、先進諸国のなかでも低い日本の若者の幸福度を高めるうえでも、アートが一助となると考えている。アート鑑賞は英語で「アートアプリシエーション」というが、アプリシエーションとは、対象を自らの感性で味わうことをいう。

「数値化や良し悪しの判断をするのでなく、自分が何にワクワクするのか、何を好きなのかに向き合う。その積み重ねで、社会や世間といった外の基準ではなく、自分のなかに評価軸が育っていく。これから活躍する学生たちにそうした実感をもって社会に出てほしい」

3月31日までとなる施設では、「ソノ アイダ #東京大学」を開催している。ソノアイダとは、アーティストの藤元明が手がけるアートプロジェクトで、期間の限られた場所を空間メディアとして活用するもの。取材時には2フロア4室で、4人のアーティストによる公開制作や展示が行われていた。

そのうちのひとり、ニューヨークを拠点とする野村在は、「工学部の学生がよく見に来てくれますよ」とうれしげに話す(野村の公開制作は1月31日で終了)。「東大というアカデミックな蓄積にアーティストも触発されてくれたら」と岡田が話すように、クリエイティビティの交差が起こりつつあるようだ。

ACUTとして、これを契機に「市民にも開放できるような場所をつくりたい」と思い描くが、課題は資金集めだ。その取り組みは意義深いものでありながら、大学から予算はつかないため、授業の費用などは企業の協賛を募っている。岡田は「なかなか難しい」と苦笑いするが、場があると、人が集まる。この実験的な取り組みの派生効果に期待したい。


岡田猛◎東京大学大学院 教育学研究科教授。カーネギーメロン大学大学院博士課程修了。創造的認知プロセス、とくに芸術創作の場において、アイデアが生まれ形になっていくプロセスやその教育的支援について研究。

文=鈴木奈央 写真=山田大輔 書=根本充康

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