国立アートリサーチセンター(NCAR)が2024年に発表した美術館に関する意識調査(関東エリア)によれば、年に1回以上美術館を訪れる人は約2割だった。アートはどこか「遠いもの」になりがちだ。
一方、そのアートは創造力を刺激し、新しい発想を生むものとしてビジネスの世界と近づき出してしばらくが経つ。「アートを使ってなにか……」という企業側の声は増えるが、アートをどう生かすのか、どんなふうに取り入れるのか、アーティストとはどう付き合えばいいのか、その関わり方はまだ手探りの段階にある。
企業は美術館をどう活用できるか
ここでひとつ注目したいのが、NCARの取り組みだ。NCARは、2023年に設立された独立行政法人国立美術館の各館を結ぶハブ的存在。「アートをつなげる、深める、拡げる」というミッションを掲げ、社会のなかでアートがどのように機能するのかを模索し、実践している。その活動のひとつとして、美術館リソースを活用したさまざまな法人向けのプログラムの開発を行なっている。
昨年には、国立新美術館との共同企画でアーティスト・ワークショップを開始した。アーティスト・ワークショップは、アーティストの創造的表現と思考に触れながら、幅広い視点からアートについて考え、表現活動を体験するプログラムで、国立新美術館単独では、現代美術やデザインなど多彩な分野から講師を招き、これまで100回以上開催してきた。
その知見を活かしてNCARと共同で行うプログラムは、組織における対話の促進や新規プロジェクトのキックオフなど、企業の目的に合わせた企画を美術館と企業が一緒につくり上げていくというものだ。
業務にない体験が対話を生む
ひとつの事例としてブリヂストンの実践を紹介したい。同社は昨夏、アーティストの流 麻二果(ながれまにか)を講師に迎えたワークショップ「日本の色」を実施。色と向き合うことで、100人いれば100通りのものの見方、感じ方があることを意識する、という体験に23人が参加した。

ブリヂストンの担当者は、品質を第一にするメーカーとして、ロジカルに取り組む力、技術力を高める視点が蓄積されていく一方、「会社の実績や経験ゆえの慣習的な仕事の進め方や固定概念がイノベーションのネックになるのではないか」と課題を感じていたところで、アーティストの視点や思考プロセスにヒントを求め、導入を決めたという。
初の試みとあり、社内で企画を通すにあたっては、ビジネスとの具体的な連携、5年後・10年後にどのような良い影響が生まれるかを提示し、承認を得たというが、その際には「アートや抽象的なことに馴染みのない人にもわかりやすいように丁寧な説明を心がけた」と振り返る。