緑の葉を勢いよく広げ、赤、ピンク、黄、青のバラが堂々と咲き誇る。小部屋に吊るされた黒地の絨毯は、共産主義体制下にあったルーマニアで、女性が伝統的な技法で織り上げたものだ。
絨毯の背後に回ると、織目の隙間から漏れた無数の光の粒が、波紋のように壁に放たれている。この光の点が壁に落とす揺らぎを、彼女は「女性のポートレート」だと話す。おそらくもう生きてはいない、作り手の痕跡のような光は、絨毯の表面と対照的に儚い美しさがある。
《光を紡ぐひと》(2025)と題されたこのインスタレーション作品は、アニエスベー ギャラリー ブティックで開催中の『わたしたちの返事:1975-2025』で発表した美術家・スクリプカリウ落合安奈の最新作だ。
国連が「国際女性の日」を定めた1975年に制作されたアニエス・ヴァルダの短編映画『RÉPONSE DE FEMMES: NOTRE CORPS, NOTRE SEXE(女性たちの返事:私たちの体、私たちの性)』が問う、「女性とは何か?」に対して、現代の女性アーティストが応えるグループ展。
4組のアーティストそれぞれの物語をもとにした「わたしたちの返事」が交錯する空間で、落合は三つの時代を生きる女性が紡ぐ光をテーマに、詩、写真、絨毯のインスタレーションという構成で作品を発表した。
同じ女性としてモヤっとした違和感
日本とルーマニア、二つの祖国を持つ落合は、2022年からおよそ1年、ルーマニアの地を踏査し、地域の伝統文化を研究する過程で、この絨毯に巡り合った。黒地にピンクやグリーンのビビッドな配色、ドット絵のようなバラの図案。半世紀前から地域に根付くフォークアートでありながら、ゲームを彷彿とさせる現代的でデジタルな面白さ。その二つが共存する点に強く惹かれた。

しかし、資料として日本に持ち帰るだけに留まらず、作品として昇華させようと思ったのは、この絨毯が単に家を彩る装飾品ではなく、作り手である女性の器量を示す象徴でもあったからだ。時代も国も異なるにもかかわらず、「女性=家庭的」というステレオタイプを押し付けられていることに、同じ女性としてモヤっとした拭い難い感情を覚えた。
落合自身、日本で女性としての生きづらさを感じながら20代までを過ごした。作家となってからは、結婚や出産が作家としてのキャリアにも影響すると聞き、「絶対に負けない」と心で強く叫んでもいた。だからこそ、フェミニズムを題材にするには十分に時間をかけて研究する必要があると感じていた。しかし今回、少し前倒し気味で発表したのには理由がある。