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食&酒

2025.04.17 15:15

驚きの「辺境ガチ中華」の超レア冷麺を埼玉・西川口で見つけた

中国遼寧省丹東と北朝鮮新義州の国境に架かっている2本の橋のうち、向かって右側の1本は朝鮮戦争時に米軍の爆撃で落とされ、今日では「鴨緑江断橋」と呼ばれている(撮影=佐藤憲一)

中国遼寧省丹東と北朝鮮新義州の国境に架かっている2本の橋のうち、向かって右側の1本は朝鮮戦争時に米軍の爆撃で落とされ、今日では「鴨緑江断橋」と呼ばれている(撮影=佐藤憲一)

「ガチ中華」を訪ね歩く醍醐味の1つに、大半の日本人が地名すら知らないであろう、中国の辺境から来た人たちが営む店に出合ったときの驚きがある。

なぜこんな辺鄙としか思えない土地から来た人たちが、日本で自分たちの故郷の料理を出す店を構えているのだろうか。こうした疑問が頭をめぐり出す。その謎解きを楽しむ体験は、突然やってくるから面白い。

今日の東京には、ほぼ中国全土の地方料理を出す店が存在している。新疆ウイグル自治区内モンゴル自治区の店が増えていることは、すでに紹介したとおりである。

それ自体よく考えると驚くべきことであり、ガチ中華の世界を訪ね始めた当初は、そういうレアな店を見つけるたびに、いくぶん興奮気味に店に入って店主にこう尋ねたものだ。

「この店では本当にあなたの土地の料理が食べられるのですか。私は中国でそれを食べたことがあるのですよ。だから訪ねたのです」

そんなことを言う日本人は珍しいのか、彼らは歓迎してくれるのが常だった。そして、いつ頃来日したかなどをひととおり聞いたあと、次のように問いかけをしたものだ。

「そもそもあなたはどうして日本に来て、飲食店を出そうと思ったのですか?」

たいていの場合、店主は照れ臭そうにニヤニヤするだけで、いきなりそんなことを聞かれるとは思ってもみなかったような顔をする。

「辺境」という概念は人それぞれイメージするものが異なるかもしれないが、<中央から遠く離れた国ざかい、または地域>という辞書の文言をそのまま受け取れば、首都から遠く離れたその国の周縁に位置する国境に近いエリアといえそうだ。

いまはなき「辺境ガチ中華」の店のサワラ餃子

3年ほど前、大阪の島之内で「丹東特色大水餃」という垂れ幕を表に掲げた「家の味」という奇妙な名の店を見つけたことがある。

大阪の島之内の通りを歩いていると、「丹東特色大水餃」なる垂れ幕を見つけた。2022年1月のことだった。ただし、その1年後、その垂れ幕の店「家の味」は閉店していた
大阪の島之内の通りを歩いていると、「丹東特色大水餃」なる垂れ幕を見つけた。2022年1月のことだった。ただし、その1年後、その垂れ幕の店「家の味」は閉店していた

確か1年あまりで閉店してしまった幻の「辺境ガチ中華」だったのだが、この店では中国遼寧省南部の丹東(たんとう)のような海沿いのエリアでよく食べられている海鮮餃子を提供していた。日本では餃子の具といえば、豚肉やキャベツが相場だが、中国では地域ごとにさまざまな特色ある食材が使われているのだ。

店に入ると、中国の地方都市によくある個人経営の素朴な食堂と変わらない風情で、サワラ餃子が看板メニューということだった。丹東から近い、日本人にもなじみのある大連には、海鮮入りのご当地餃子がある。黄海でとれる黄魚(日本でいうイシモチ)やイカ、サザエなどの餃子が知られるが、実はサワラ餃子こそ、最も庶民的なメニューなのだ。

少し武骨な見た目だが、いかにも手づくりとわかるサバ餃子
少し武骨な見た目だが、いかにも手づくりとわかるサワラ餃子

筆者は大連で何度か海鮮餃子を食べたことがあるが、日本国内ではまだお目にかかったことのないサワラ餃子を、その「家の味」という名の店でいただいた。肉の餃子と違い、油っぽさはなく、さっぱりしていた。店主の男性は7年前に来日した丹東出身の人で、注文すると、おもむろに皮から手づくりであんを包み始めた。

「家の味」の年老いた店主は日本留学後、起業した息子に呼ばれて来日したが、することもなく、店でも始めたらと促されたが、長く続かなかったようだ。あまりにローカルなご当地料理だったので、経営的に厳しかったかもしれない
「家の味」の年老いた店主は日本留学後、起業した息子に呼ばれて来日したが、することもなく、店でも始めたらと促されたが、長く続かなかったようだ。あまりにローカルなご当地料理だったので、経営的に厳しかったかもしれない

丹東は大連から高速鉄道で2時間ほどの土地なので、辺境というにはアクセスが良すぎるかもしれないが、よくメディアの報道に出てくる北朝鮮国境の町で、両国をつなぐ鉄道橋が架かる貿易の拠点である。

それゆえ、両国の物流や人的往来に関心を持つ北朝鮮ウォッチャーが注視する町なのだが、その国境橋は観光スポットにもなっていて、両国の間を流れる鴨緑江では遊覧ボートがのどかに行き交っている。

海鮮餃子は珍しいとはいえ、丹東出身の中国籍の人はけっこう日本にいるので、こういう店があっても不思議ではないかと、そのとき思ったものだ。

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文・写真=中村正人

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