我々は皆、会社の会議でこんな場面に出くわしたことがあるはずだ。会議参加者の誰もが協議内容をよくわかっているようにうなずくなかで、ある出席者がこんな発言をする。「わが社のGTM(Go To Market。商品などを顧客に届ける計画)戦略のために、バックログ(未着手の作業や実装すべき機能、改善点)の優先順位付けを急ぐ必要がある」
意味がわからなくて当惑するあなたをよそに、ほかの皆はうなずいている。あなたはその瞬間、リーダーシップ指南書の中で最も頼りになるフレーズに手を伸ばす。つまり「その件については、後でまた検討しよう(Let’s circle back on that.)」と言うのだ。
これは、安全な引き延ばし戦術だ。スマートで言質を与えず、曖昧で時間稼ぎにちょうどいい。現代では会議が立て続けに行われ、 (よくわからない)バズワードが飛び交う。そうした状況では経験豊富なリーダーであっても、いかにも状況をうまくまとめられたかのように見せようとして、よく使われる言い回しに手を出してしまうことがある。しかし、こうした言い回しが実際に意味するところを、詳しく見てみることは有益だ。
リーダーは、どんな質問を投げかけられても必ず答えを出さなくてはならないという暗黙の期待を背負っている。決断力があり、確信をもち、いついかなるときでも対処できる人間であるべきだと。しかし真のリーダーシップとは、どんなときでもすぐさま正解を出せることではない。本物のリーダーとは、立ち止まってじっくりと考え、決断を下すべきタイミングを判断できる人のことだ。
先述した、「後でまた検討しよう」というフレーズの価値が発揮されるのはここだ。このフレーズは意図的に用いれば、答えを避けるためというよりも、戦略的なひと言になる。そして、即時性ではなく質を重視する姿勢を示せる。ただし、有言実行が大事だ。「あとで検討する」という約束は、行動を伴わない限り、有効なものとは言えない。
「使える」ビジネスリーダーの定番フレーズ5選
ビジネス界で人気の言い回しは、先ほどの「後でまた検討しよう」だけではない。ほぼすべてのミーティングで耳にする定番フレーズが、ほかに5つある。
1.「その件については、後でまた個別に話そう(Let’s take this offline.)」:話が細かいところに及んだときや、やりとりが緊迫したとき、あるいは一部の人たちには不都合な話題がもち上がったときによく使われるフレーズだ。話題をうまく変えたい場面や心の準備ができていない話を、丁寧な言い方で中断したい場面で重宝する。
2.「情報を常に共有するよ(I’ll loop you in.)」:協調的で、行動志向的に聞こえるフレーズだ。しかし同時に、あなたが現時点では答えをもっておらず、別の誰かが答えをもっていると期待したい、ということも示唆している。
3.「いったん保留にしておこう(Putting a pin in it.)」:話を上手く切り上げたいときによく使われる。計画や目的があるように聞こえるが、たいていは「その件については、今のところ対処していない(今後も対処することはないだろう)」という意味だ。