各地で発生している武力衝突や軍事侵攻。一部の大国における政策の不確実性が増し、経済の不安定化や国際秩序の変容など、世界が複雑さを増すなか、地政学・地経学的リスクが高まっている。こうした状況下で、各分野のリーダーたちには、どのような舵取りが求められるのだろうか。
アナス・フォー・ラスムセン氏は、デンマークの首相を3期務めたのち、2009年8月から2014年9月まで北大西洋条約機構(NATO)の事務総長として欧米の集団安全保障体制の強化に努めた経験をもつ。現在は、自身が2014年に設立した戦略アドバイザリーファーム「Rasmussen Global(ラスムセン・グローバル)」を率い、国際的な政治、経済、安全保障に関する問題について、政府や企業に対して戦略的なアドバイスを提供している。
2025年3月上旬、ラスムセン氏は都内でForbes JAPANのインタビューに応じ、デンマーク首相やNATO事務総長といった要職を務めた経験を踏まえた世界情勢分析、求められるリーダーシップ、イノベーションの価値について語った。
━━2016年に出版されたご著書『The Will to Lead: America’s Indispensable Role in the Global Fight for Freedom(率いる意志:世界的な自由のための闘いにおける米国の必要不可欠な役割)』(未邦訳)の序文で、まさに今、世界各国で起きている紛争や衝突の背景を指摘されています。出版されたのは、ロシアがクリミアを併合してから2年後、米大統領選挙の直前のことでした。ドナルド・トランプ大統領の初当選は想定外だったのかもしれませんが、それ以外のほぼすべてを予見していたように思えます。トランプ政権が2期目を迎えた現在の世界情勢をどのように見ていますか?
アナス・フォー・ラスムセン(以下、ラスムセン):『The Will to Lead』を書いたのは、米国の世論が変化していると感じたからです。米国の国民に世界情勢に関与し続けてほしい、という私からの願いから生まれています。残念ながら、その声は届きませんでした。初めて選出されるや、トランプ大統領はある種の孤立主義的な外交を始めました。ただ、1期目では完全なトランプ主義政策を追求できませんでした。なぜなら、当時のトランプ大統領は、私が「古典的な共和党の外交政策」と呼ぶ枠組みに頼らざるを得なかったからです。しかし、今始まった彼の2期目はまったく異なるものになるでしょう。