イスラム法学者たちが新たな事象について法解釈を検討するファトワ協議会で、イスラム教徒の宇宙活動に関するガイドブックが発表されました。「可能な限りメッカの方向を向くこと」、ただしどうしても仕方がない場合は、礼拝をはじめるときの方角だけでもよいし、その判断は宇宙飛行士自身に委ねるというものでした。断食も地上に戻るまでの延期も認めるなど、厳格な戒律のなかにも不作為に対する寛容さがあり、創造的な着地点の見つけ方に興味をもったことをよく覚えています。
企業活動においてダイバーシティー推進が叫ばれる一方で、「多様性はどこまで認めればよいのか」とその受け入れに懐疑的な声も少なくありません。郷に入っては郷に従えをよしとする日本的な組織であればなおさら、新参者の独立独歩な振る舞いを好みません。しかし「入郷従郷」はあくまでも移住者の側からみた処世術であり、受け入れるはずの「郷」の側がそれを相手に強いるのはいかがなものでしょうか。
多様性を認める認めないなどと単に二項対立的にとらえるのではなく、その狭間に双方歩み寄りの余地を面白がる工夫にこそダイバーシティー経営の醍醐味があるはずです。「郷に入ってもたまには独歩」くらい寛容であった方が、多様な文化や価値観をもった人が次々に入郷したくなるような豊かさをそなえているように思います。
戒律なのでムスリムの方に「ケバブと豚汁」定食をお試しいただくのは無理ですが、ムスリムでない方であればケバブもいろんな料理と合いますので一度お試しを……。

塩瀬隆之◎京都大学工学部精密工学科卒業、同大学院工学研究科修了。2014年7月京都大学総合博物館准教授。2018年より経済産業省産業構造審議会イノベーション小委員会委員および若手WG座長、特許庁知財創造教育調査委員、文化庁伝統工芸用具・原材料調査委員、日本医療研究開発機構プログラムオフィサー、2025年大阪・関西万博政府日本館基本計画有識者など。2017年度文部科学大臣表彰・科学技術賞(理解増進部門)ほか、受賞多数。