ATR知能ロボティクス研究所研究員も務めた工学博士で、現在京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之氏は、職場である総合博物館前の大学生協食堂「カフェテリアルネ」で昼食を取る際、半分程度の確率で「ケバブプレート」と「豚汁」を組み合わせるという。
豚肉を食べることが禁止されているイスラム教の戒律に準拠し、基本的にはイスラム教徒の学生や職員のため、豚肉も、豚肉の調理に使用した調理器具も使わずに京大の生協食堂が導入したハラルメニューのひとつ「ケバブプレート」に「わざわざ豚汁」を合わせる塩瀬氏が、このいともユニークな組み合わせランチを食べながら考えた「宇宙と戒律」、「入郷従郷」、そして「厳格と寛容」とは——。
以下は氏による寄稿である。
エジプト出身の留学生からかけられた言葉
大学生協の食堂で、かれこれ15年ほど食べているお気に入りのメニューがあります。しかし先日、「ケバブトトンジル イッショニ タベテルセンセイ ヘン」と指摘されてしまいました。
もちろん豚肉を調理していないハラル専用のキッチンレーンと、他のキッチンレーンが別々なので、この組み合わせで食べるには、学生があふれる昼間のピーク時にわざわざ長い待機列を二つ並びなおす必要があります。この文化折衷的な食べ方が美味しいと思っていたのですが、イスラム教徒の人からすれば違和感のある組み合わせであることに改めて気づかされました。
イスラム教徒は戒律で豚肉を食べることが禁じられているため、適切な処理で調理されているか、加工品であってもそれが混入していないかを示すハラル認証が重要です。日本ではまだメジャーとは言い切れない認証制度ですが、イスラム教徒の人口が世界の約3割に迫る20億人ともいわれる勢いで成長していることを考えれば、その人数の人が安心して食べられる食品市場もまたビジネスとしては無視できない規模のはずです。
個人的にイスラム教徒の方と初めて出会ったのは学生時代にさかのぼります。所属していた研究室にマレーシア出身の客員研究員の方が滞在しており、研究室の教授からお世話係に任命されたためです。
豚肉がダメだとは何となく知っていたので、大学近くの食堂でもチキンカツやアジフライなどであれば大丈夫だろうと思っていました。しかし豚肉を調理した包丁を使っていないかを厨房に聞いてきてほしいと頼まれるたび、いろいろなお店で怪訝な顔をされたことも懐かしい思い出です。